(=゚д゚)夢鳥花虎のようです

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1以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:02:53.763ID:XQwBnzfd0
はじまるよー

2以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:03:06.275
生け花教室
http://i.imgur.com/6vnONHF.jpg
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3以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:03:15.343
(´;ω;`)でちゃう!!でちゃうよぉ!そんなにおちんぽじゅぽじゅぽされたらでちゃうのぉ!!ほんとでちゃいそうだからやめてぇ!!!

(´;ω;`)やめて!!ほんとにでちゃうからぁ!!さきっぽぺろぺろしたりおくまでくわえてぐりぐりされたらでちゃうよぉ!!!!

(´;ω;`)らめえええええ!!!ふかふかおっぱいでおちんぽちゃんはさんじゃらめらのおおおおお!!!!やわらかくてきもちぃのおおおおお!!!

(´;ω;`)なんでぇ!?なんでこんなひどいことするのぉ!?おちんちんきもちよくしないでぇ!!おせーしだしたくないのぉ!!ひぃん!!

(´;ω;`)ほんとにでちゃうからぁ!!やめてぇ!!でちゃう!!でちゃう!!でちゃうよぉ!!!!!!!

(´;ω;`)うああああああああああああああ!!!!でちゃうううううううう!!!!やめてよおおおおおおおお!!!

(´;ω;`)いくらぼくのおちんぽちゃんがかわいいからって!そんなに!!いとおしそうになめられたらぁ!!かんじちゃうよおお!!!

(´;ω;`)きもちよくなりたくないのぉ!!んほぉぉおおおおお!!やめてよぉおおお!!!!

(´;ω;`)あっあっあっ!!とめてっ!!いったんとめてぇっ!!あっあっあっあっ!あぁっ!!!だめっ!!

(´;ω;`)だめっ!!それは!ほんとにっ!だめっ!!だめだったらぁっ!!

(´・ω・`)

(´;ω;`)ほんとに!!もうむり!!たまたまのなかみぜんぶっ!!でちゃうっ!!やめてぇ!むり!!むりぃっ!!!

(´;ω;`)あああああぁっ!!あああああぁっ!!あああああぁっ!!!!!うぐううぅぅうう!!

(´;ω;`)でちゃうよぉ!!!でちゃううううぅぅぅ!!!イッッッッッッ!!!グぅぅぅううう!!!!

(´;ω;`)どぼぢでぞんなにおぢんぢんいぢめゆのぉぉぉおおお!?!?ひどいごどじないでよおおおおお!!!

(´;ω;`)このおにいいいいいい!!!あくまあああああ!!!!やめろおおおおおお!!!!!!

(´;ω;`)かいらくなんかにまけたりしないぞおおおおおおお!!!まけるもんかああああああああ!!!!!!

(´;ω;`)んほおおおおおお!!まけるうううううう!!!きもちよしゅぎてまけるううううう!!!!!

(´;ω;`)こうさんしますぅ!!まけました!!まけましたぁぁあああああ!!!!!んぎもぢぃぃぃいんんんんん!!!

(´;ω;`)あひん!!!!!あひっあひっあひぃぃいいいいい!!!そこはらめええええええええ!!!!!

(´;ω;`)あなたってほんとうにさいていのくずね!!!!ひきょうもの!!はじをしりなさっ!おほっ!!んひぃぃ!!!

(´;ω;`)あふっ!あんっ!あんっ!しょこぉ!らめっ!でっ!!でっっ!でっっっっっっ!!!!!!

(´;ω;`)でちゃいそうなのおおおおお!!!やっ!やめっ!!!やめてぇっ!!!!!

(´;ω;`)でちゃうううう!!でちゃうよおおおおおおお!!!

(´;ω;`)あああああぁっ!!もうむりいいい!!でちゃううううう!!!

(´;ω;`)でちゃいそう!でちゃいそう!!そろそろでちゃいそう!!!やめてぇ!!

(´;ω;`)ほんとにぃ!!もう!!!らめぇ!!んあっ!!んんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!

(´;ω;`)でちゃいそう!!!!!!!!!!!

4以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:03:22.108ID:XQwBnzfd0
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序章【それは白い夜に】

                  無慈悲であり、残虐にして非道。
               そして、極めて人道的な殺人事件である。

                                  ――モーニングスター新聞より抜粋
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

凍えるような白い風が吹き荒れるその日、ジャーゲンの街は朝から記録的な大雪に見舞われていた。

朝から続く吹雪は街をすっかり白に染め上げ、立ち並ぶ世界屈指の高層ビル群の明かりもまるで見えず、白い夜が訪れていた。
二十センチを超える積雪量は過去五十年で初めての事で、それに慣れていない人間や企業は大慌てだった。
地下鉄を除く交通機関は軒並み麻痺し、街は静かに降り積もる雪に喧騒さえも支配されていた。
この光景に声を上げて喜ぶのは子供たちばかりで、大人たちは皆声を出す代わりに白い息と共に不満を吐き出した。

( ^ω^)「わーい! 雪だおー!」

ξ*゚听)ξ「すごーい! しろーい!」

ミセ#゚−゚)リ =3 「はあ゛ぁ……」

ビルの眼下に広がる絶望的な光景を見て、会社勤めの人間はサービス残業せざるを得なくなった。
そういう意味では、会社側としては金を払わずして仕事をしてもらえるのだから、嬉しい展開と言えた。
電車もバスも動きを止まった街で、仕事を終えて帰宅する人々は雪をかき分けるようにして歩き、これ以上雪が積もる前に家路を急いだ。
小さな街灯が月の代わりに空中を漂う雪の姿を幻想的に照らし出していたが、その光景は下を向いて歩く人々の目には映らなかった。

この豪雪の中で歩く人間にとっては、風情などまるで関係のないものでしかない。

――雪が音を立てて降り積もる。

悪天候の影響でジャーゲンの街にあるほぼ全ての店はシャッターを下ろしていたが、一部の店はその扉を解放して一人でも多くの客を中に招き入れようとしていた。
寒さと雪から逃げるようにして飲食店にやってくる客は当初の見込みよりも少なく、店員たちは刻一刻と積もっていく雪を見ては己の不運を嘆いた。
これで、ほぼ確実に彼らは予定の時間を過ぎたところで家路につくことが出来ないし、交代の人間と入れ替わることも出来ない。
ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。

しかもこういった日に来る客は大体が雪の影響で帰宅困難となった人間であり、店に金を落としていくというよりも、暖房の効いた店で時間を潰す迷惑なホームレスと大差はなくなってしまう。
コーヒー一杯で既に三時間以上も居座り、店内に流れるラジオに耳を傾けている振りをしつつ眠る人間もいた。
そう言った客を無碍に追い出すことも出来ない客入り具合であるため、店員たちは早く時間が過ぎて雪が落ち着くことを切に願った。

( ´∀`)「……流石に冷えますモナね」

(,, Д )「……」

(;´∀`)「……」

中には風変わりな客もいた。

カフェとバーを時間帯で切り替えて営業するその店には、昼間から居座る客が一人いた。
雪しか見えない窓際の席に座り、一時間おきにスコッチをストレートのダブルで注文するので、
バーテンダーの男はボトルとグラス、そしてチェイサーに使用しているミネラルウォーターとグラスを机の上に置くことにした。
すでにボトルは三本目に突入していたが、男は顔色一つ変えずに窓の外を眺め、チェイサーにはほとんど手を付けずにいた。

大皿に盛られたドライレーズンを一掴みして口に運んではスコッチを飲み、またレーズンに手を伸ばす。
そうして、すでに七時間以上が経過していた。
レーズンの袋は店からなくなり、次に注文が入った際には売れ残って賞味期限が近くなっているオリーブを瓶で出すしかないと、バーテンダーは考えていた。
雪を眺めるその客は、まだ若さの残る男だった。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)

5以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:04:48.653ID:XQwBnzfd0
(,, Д )

( ´∀`)「……」

男は見事なブロンドの短髪を逆立て、少し草臥れたベージュ色のトレンチコートをしっかりと着込んでいる。
活発なそう風体でありながらも沈黙を守る姿を含めて、彼は奇妙な客だった。
酒を飲み続けているのに、その黒い瞳が放つ鋭い眼光はまるで鈍る様子が無く、研ぎ澄まされた刃を彷彿とさせ続けている。
普通、アルコールに溺れる人間は目の輝きを失い、虚ろな表情で酒を飲むものと相場が決まっている。

車が燃料を欲するように、人間もアルコールを欲するようになる。
数多のアルコール依存症の人間を相手にしてきたバーテンダーは経験に基づいて、この男はアルコール依存症でも自棄を起こしているのでもなく、ただただ酒を作業的に飲んでいるのだと考えた。
言ってしまえば、義務に等しいルーチンワーク。
そこに楽しみもなく、悲しみもない。

あるのはただ、そうしなければならないという使命感にも似た行動原理だけ。
そうでなければ、アルコール度数四十度以上のスコッチをこうも連続で飲めるはずがない。
アルコールとは人体にとって毒だ。
毒を摂取し続ければ、人間の体には何かしらの異常が必ず現れる。

例え無心で酒を飲んでいようとも、しばらくすれば言動に異常が出るはずだ。
しかしながら、その男はその傾向がまるで見られない。
酒豪を豪語する人間でさえ、ここまで無表情を貫けるものではない。
目的を持ち、意識を手放さないという気持ちが残っているに違いない。

内心で驚愕するバーテンダーの視線の先で男はグラスを傾け、琥珀色の液体を一気に飲み干した。
男は自分で酒をグラスにたっぷりと注ぎ、静かに飲み続けた。
バーテンダーは新たなボトルを準備することにした。

( ´∀`)(面倒そうな客モナね……)

――時計の針が進み、雪が積もっていく。
時間と共に積もるのは雪だけではない。
例えば、人の想いや感情もまた時間と共に深く積もっていくのであった。

遂に三つ目のオリーブの瓶が男の前に置かれた。
男がそれを無言で食べ、酒を飲み続ける。
何が男をここまで駆り立てているのか、バーテンダーには皆目見当もつかない。
ただ、言えることがある。

この男は酒を全く楽しんでいない。
酒だけではなく、視線の先にある物にすら興味を持っていない。
今、この男は別の何かに意識の全てを捧げている。
後にバーテンダーはその男の様子を、燃え尽きた様に気力を感じられなかった、と表現した。

――雪がようやく弱まってきたのは、日付が変わる一時間前だった。

それまでホワイトアウトによって完全に視界を奪われていた街は白い化粧を施した姿を露わにし、道路がしばらくの間機能を失うことは、誰の目にも明らかだった。
路肩に駐車されているSUVでさえその半分ほどが雪に埋もれ、身動きが取れない状態だった。
こうなると家路につこうと歩く人間は一人としておらず、皆、どこかの店に居座って一夜を明かすことに決め込んでいた。
もっとも、店から出ようにも、店の扉は雪で閉ざされており、出ていけないのだが。

店側も今後の評判を気にしてか、一夜限りではあるが店を臨時の避難所として客に開放することにした。
どうせ居座られるのならば、善意を見せることで評価につながるのであれば、そうするべきだからだ。
奇妙な客が居座るその店も、他店と同様に店を避難所として使用することを決め、店内にいる客たちにその旨を伝えた。
暖房費はカンパで集めることにし、店の赤字を少しでも減らそうとした。

客たちは積極的にカンパをし、店の気遣いに感謝したが、むしろ、暖房を入れることで客の喉が渇き、酒の注文が増えていることには気づいていなかった。
軽い宴会気分で酒を飲み、明日の仕事のことを忘れて人々はその一時を楽しんだ。
しかし、奇妙な男は代金を机に置いて店から姿を消していた。

6以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:05:46.176ID:6WtJ11b80
☆ゅ

7以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:06:41.491ID:XQwBnzfd0
(;´∀`)「あれ?」

――バーテンダーがそのことに気づいた時、日付はすでに変わった後だった。

(,,゚Д゚)「……」

男は白い息を吐きながら、降り積もった雪を蹴散らすようにして歩いていた。
視界の全てが白く、街の姿がまるで見分けのつかないものに成り果てていたが、男の歩みはまるで迷いがなかった。
行くべき場所の方向が精確に体で理解できているかのようだった。
しかしながら、目印になるようなものがなくてもそれは可能なのだろうか。

答えは是である。
己の位置を俯瞰して地図と重ねて見ることが出来れば、方角が分からなくとも進むべき方向、選ぶべき道を理解することが出来る。
男は目的地を精確に理解していた。
例え目隠しをした状態であっても、目的地に難なく到着できたことだろう。

高く積もった雪に描かれた男の軌跡が、それを雄弁に物語っていた。
誰にも見られることなく、男はとある高級マンションの前にやってきた。
地上二十階建てのそのマンションは、街の中でも限られた人間だけが暮らすことのできる、ひと際目立つ高級な建物だった。
夜闇に浮かぶその姿は幻想的ではあるが、どこか不気味さを感じさせる威圧感があった。

豪雪の影響を鑑みてその日ばかりは専任の守衛も入り口ではなく、安全な室内で暖を取っていた。
不審者の訪問を見咎める人間は誰もおらず、男が玄関の電子ロックをショートさせて建物に入り込むことは容易極まりなかった。


記録的な雪から一夜が明け、そのマンションの一室から一人の男の死体が発見された。
死体の顔は原形がほとんど残っておらず、徹底した破壊がされていた。
現場に最初に駆けつけた警官は新人だったが、それが明らかに恨みによる犯行であると断言できるだけの物だったという。
特に下半身と顔に対して執拗に暴行が加えられたことが、司法解剖の結果と通報者兼実行犯の証言で確実なものとなった。

それは、二月の白い夜に起きた殺人事件だった。


序章 了

8以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:09:34.263ID:XQwBnzfd0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第一章【金の羊事件】 前篇

     臆病さは命を救うが、時として、救いがたい愚か者を生み出すことにもなる。
                     金の羊事件がいい例だ。

                          ――服役囚:ブギーポップ・“レモナ”・アークライト
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

――かつて、大きな戦争があった。

世界を終わらせたその戦争は第三次世界大戦と呼ばれ、時代の大きな節目として人類史に刻まれることとなった。
戦争終結後、人類は文字通りゼロから途方もなく長い時間をかけて文明の復興を成功させたが、栄華を極めた時代と比べれば失われた物が多く残る時代が訪れたのであった。
叡智の結晶とも言える多くのテクノロジーと共にインターネットを含む技術や設備、知識が失われたのは言うまでもないが、最大の喪失は国という概念だった。
かつて存在した国境など、地形が変わる程の破壊と時間の流れには無意味であり、領地の拡大に躍起になっていた過去は今や無くなっていた。

国だったものは跡形もなく消滅し、独立した秩序と発展を果たした街や村に変わっていた。
人が生み出した通貨も進化の波には抗えなかった。
価値の違いを生み出す紙幣は当然の如くこの世界から消滅し、貨幣だけが生き延びた。
化石燃料は採掘場を作るだけでも大量の資金と資材が必要になるため、純金のような価値を持つようになり、プラスチックなど化石燃料を主とする製品は高級品として取り扱われた。

だが勿論、失われた物ばかりではなかった。
貨幣価値や言語は世界共通のものに統一され、貨幣や言葉の違いで揉めることはなくなった。
皮肉なことに、世界の構造そのものが一度失われたからこそ実現した、かつての夢想家たちの理想の一部が実現した姿であった。
そして、世界は共通したルールに従って歩みを続けることになった。

力が全てを変えるという、たったそれだけのシンプルなルールの基に。
これは、力が世界を変える時代の物語。
――そして、虎と呼ばれた男の物語である。


七月十日。
創業二七十周年を迎えたオプティマス銀行にとって、その日が創業以来最悪の日となったことは誰の目にも明らかだった。
古い鉄筋コンクリートで作られた地上一階、地下一階の建物は創業からほぼ変化のない、
老朽化の激しい銀行ではあったが、一時的にどこの銀行よりも有名になることになった。

周囲を乾燥した赤銅色の大地に囲まれたミニマルの町に唯一存在するその銀行は、
店長が変わった今年に入っただけで既に三回も強盗に襲われており、創業記念日である今日の一件を合わせて四回となった。
一度目は素人の集まりだったために警備員がそれを未然に阻止し、被害は店の入り口の薄いガラス戸だけで済んだ。
二度目はプロが襲ってきたため、抵抗することもできずに金を渡すこととなった。

三日後、犯人一味は無事に逮捕され、奪われた金は犯人達の臓器によって取り戻すことが出来た。
楽観主義で守銭奴の店長は流石にもう強盗が来ることはないだろうと考え、警備に金を回すことを渋った。
そうして、三度目の強盗が発生した。
金庫の中身は勿論、客の持つ貴金属類に至るまで全て奪われ、金が戻ってくることはなかった。

幸いなことに、契約していた保険会社のおかげで幾らかは補償金で取り戻すことが出来たが、銀行側の支出と赤字は避けられなかった。
貨幣価値の統一、そして紙幣の撤廃によって銀行の在り方は昔と比べて大きく変わっていた。
預け入れた金に対して利息が生じることはなく、客は金を預けるのと共に毎年利用料を支払い、預けた金を安全に管理してもらう契約形態になっている。
支払いが滞れば預けた金は全て銀行の物になり、利用者の手は戻らない。

例えそれが利用者の死亡が原因だとしても、遺族が必要な手続きを生前にしていなければ例外ではない。
ほぼ世界的に共通して言える事ではあるが銀行を利用する際、客は複数の契約形態を提示される。
大きさによって値段の異なる小さな金庫を選び、それを大金庫に保管するのだが、その後、事件や事故が起こった際に保証される額が大きく異なる保険への加入を選ぶことになる。
金額が高ければ高いほど、その保証額は大きくなるが、最低プランでも預け入れた金の七割が保証されるのが一般的だ。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)

9以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:16:50.009ID:XQwBnzfd0
金庫内に管理されている個人の預金は本人と銀行側で管理している帳簿、そして金庫内にあるもう一つの帳簿に記載され、合計三つの書類を用いて額の違いのないように管理されている。
現代の銀行は巨大な貸金庫屋と言った方がいいだろう。
当然の危惧として考えられるのが、銀行員と客がグルとなって帳簿の額を変更するという事態だ。
それを防ぐため、その記入は全て電子制御されている。

だが、地方や発展途上の街にある超小規模な銀行ならば電子制御ではなく、手作業で記入されるというのだから世界の広さは侮れない。
これだけ銀行強盗に襲われていながらも、町の人間たちはオプティマス銀行を利用し続けた。
町唯一の銀行が持つ大金庫は、住民達にとっては少なくとも自宅の持ち運びが可能な金庫よりは安全だと判断したのだ。
彼らには選択肢が他になかっただけなのである。

そして、起きるべくして四回目の銀行強盗が発生した。
しかしながら、今度ばかりはこれまでとは事情が違った。
店長は金庫に通じる空間全体の補強を行い、警備員も一人から二人に増やした。
堅牢な金庫は地下室に置き、厳重なセキュリティシステムを導入した。

安全な金庫の噂はたちまち町中に広まり、これまでの汚名は返上され、住民達は皆、金を銀行に預けた。
そして月日が流れ、金庫の容量が限界に近づいた頃に招かれざる客人たちは現れたのであった。
外に立っているだけで汗が流れ出る気温の中、正午過ぎに店の扉を押し開いたのは、季節外れのニット帽を目深に被り、マスクをした男だった。
店内には銀行の従業員四名、警備員二名、そして客十名を合わせ、十六人の人間がいた。

(::(・)::(・):)「さて、と」

男はごく自然な動作で肩にかけていたボストンバッグを床に置いて、そこから通帳を取り出すような気軽さでイングラムサブマシンガンを取り出した。
一度銃爪を引けば銃腔の先にある物を細切れにするほどの連射力を誇るその短機関銃は安価で市場に出回り、
誰でも容易に手に入れることが出来る上に、軽量であるが故に年齢や性別に関係なく取り扱う事が出来る利点を持つ。
それを使って金を降ろす手段は一つだけだ。

(::(・)::(・):)「全員動くな!」

銃を見た警備員二人が条件反射的にホルスターから拳銃を引き抜こうとしたが、
すでに店内に客として潜んでいた強盗の仲間達がショットガンをその後頭部に突きつけ、抵抗するタイミングを同時に奪い取った。
そしてカウンターの従業員に警報装置を作動させないよう、客に扮していたもう一人の男がイングラムを構えた。
一瞬にして四人の強盗が店内に現れたことを理解し、女性店員が悲鳴を上げた。

从´_ゝ从「きゃああああああああ!!」

悲鳴が女性客たちに伝播し、恐慌状態に陥る。
だがこの日はこれで終わりではなった。

( 0"ゞ0)「全員動くんじゃ!」

悲鳴とほぼ同時に銀行の前に大型のワゴン車が停まり、そこから怪物の仮面をした武装強盗が五人降りて店内になだれ込んできたのだ。
そして当然の流れとして、すでに店内を制圧していた強盗達と睨み合うこととなる。
人数はそこまで違わないが、二組目の強盗達の持つ武器はコルトM4カービンアサルトライフルなどの威力の高いもので、防弾着などの装備も揃えていた。
一般市民の目から見ても、一目で彼らがこの日のために準備をしてきたプロなのだと分かった。

( 0"ゞ0)「ねぇっ?!」

この日が最悪の日として記憶されたのは、次に現れた三組目の強盗達の出現が何よりも大きな決め手となった。
銀行の裏口からボディバッグを背負い、拳銃と防弾着、そして目出し帽で武装した七人の男達が静かに店内に現れた時、客と従業員は全員例外なく、己の死を予感した。
一組の強盗ならば分かる。
二組の強盗も、運が悪いと諦められる。

(::0::0::)「全員動く……な……?」

だが三組同時に強盗が現れるなどと誰が予想し、納得できるだろうか。
ここに現れた強盗達でさえ、この状況は予想できたはずがない。
店内の銃はすでに客だけでなく、強盗同士でも向けられており、いつ何がきっかけで銃爪が引かれるかまるで分からない。
混沌を極める状況が発生し、その根本にある目的が金であれば、必ずや争いが起こる。

10以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:21:30.997ID:XQwBnzfd0
ここで撃ち合いが始まり、そして、生き残った強盗達は死体から金品を奪い取るに違いない。
待ち構えている運命は死だけであり、最早、生き延びられないのだと客の誰もが諦めた。
きっと新聞の片隅に名が載って、その内珍しい強盗事件の不運な被害者の一人として忘れられるのだ。

(::(・)::(・):)「……話し合いが必要だな」

無言の膠着状態を打開すべくそう言ったのは、最初に現れた強盗の人間だった。
打開策を口にしながらも、受付の人間に向けた銃は逸らさず、決して隙を見せないのは流石だった。
一瞬の隙を突いて店員が非常ボタンを押すことが出来れば、武装した警官達がこの銀行目掛けて殺到することになる。
だがそれは強盗が最も注意を払っている事であり、間違ってもそのボタンを押させるような事はしない。

状況がどうあれ、己のやるべきことを心得ている人間の動きだった。
もっとも、この状況下でそのような策を講じることのできる従業員は受付に座っていなかった。
そして、それに続いて掠れた声で指示を出したのは三組目の強盗を率いる男。

(::0::0::)「予定通り出入り口を閉じろ」

( 0"ゞ0)「……俺達も、予定通りに動くぞ」

多少の不満の色が声に現れていたが、二組目の強盗の主格も指示を出す。
指示を受けた男達は素早く散り、カウンター内にあるボタンを操作して店の出入り口を厳重に封鎖した。
分厚いシャッターが下ろされ、店内の様子の一切が外部に漏れない状態が作られた。
これで誰かに異常事態を見てもらうという事が不可能となり、人質達が持つ数少ない希望が断たれた。

外部からの助けが期待できない以上、抵抗する術を持たない彼らはただ、強盗達が金だけでなく彼らの命を奪わない事を願うばかりである。

(::(・)::(・):)「全員うつ伏せになって両手を背中に回せ」

客達は言われた通りに動き、結束バンドで手首と足首を縛りあげられた。
更に、銀色のダクトテープで口を封じ、客同士の会話や無駄な叫び声の一切を遮断した。
手際よく進められた作業により、十三人の人質は瞬く間に無力化された。

(::(・)::(・):)「クリアです、ボス」

強盗発生から十分後。
人質たちは男女に分けてトイレに押し込められ、中と外に一人ずつ見張りが立つことになった。
勿論、武装した見張りの男は人質たちの私語を一切禁じ、余計な動きをしようものなら性別年齢に関係なく銃床で殴りつけた。
警備員は真っ先に抵抗する気力を失い、怯えて動く事さえ出来なかった。

人質たちが人生で最も憂鬱かつ陰鬱な気持ちで時間が過ぎるのを待つ中、三組の強盗を束ねる男達は店長の部屋を使って建設的な話し合いをしていた。

( 0"ゞ0)「つまり、目的は一緒というわけだ」

それは二組目の強盗を指揮する男、ジョンリーダーが発したまとめの言葉だった。
勿論彼の名前が偽名なのは疑いようのないものであったが、その場の人間達は皆、同じようにその場しのぎの偽名を名乗っていた。
名前など、あくまでも互いを認識できる最低限のレベルでいい。
自分達のグループに名前を付け、指揮者はリーダーをその名前の後に、他の人間はジョンエーなどと名乗る始末だった。

金庫の中身について言及した一組目の強盗は、自分達をチョコレートと名乗っていた。

(::(・)::(・):)「分け前はどうする?」

欲を出せばたちまち殺し合いになる事は目に見えている。
この中で最も力を持っている三組目のゴルディに発言権があるのは明らかだ。
彼はこの銀行が抱えていた秘密を知る唯一の存在だった。
彼らの力なしではそもそも金庫の中身に到達することが出来ない。

単純な武力もそうだが、知識的な物も含めた力関係は明らかであり、己の力を知るゴルディリーダーは手短に分配について発言した。

(::0::0::)「俺達が六で、残りはそっちで話し合えばいい」

11以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:27:12.969ID:XQwBnzfd0
彼の分配方法は理に適っていた。
最も大きな利益を自分達が選び、残りは彼らの意志に委ねることによって自らは利益争いから身を引き、安全な位置を確保する。
そのための六割。
そして、残りの四割なのだ。

(::(・)::(・):)「……じゃあ、二ずつでどうだ?」

( 0"ゞ0)「あぁ」

チョコレートリーダーの提案に、ジョンリーダーは頷いて同意した。
ただでさえ混迷を極めかねない状況下であるため、余計な争いの種はまきたくない。
金が得られるだけでもよしとしなければならない。
欲を張る人間は、必ず最後に泣きを見る。

彼らの仕事はより多くの金を得る事であるが、それを確実に手に入れなければ何の意味もないのだ。
命を失ってしまえば、金を使う事は出来ない。
丁度割り切れる数であったこともあり、不満は出なかった。
取り分を決めた後、強盗達はすぐに金庫を開ける作業に移ることにした。

重大な問題が起きていたのは、三組の強盗が邂逅する一か月前の事だった。
店長は度重なる強盗に苛立ち、遂に大きな決断を下した。
最新鋭の金庫を導入し、最高のセキュリティで金庫を守ることにしたのだ。
こうすれば強盗が来たとしても、金庫内にある金品に一切手を付けることはできない。

そして、金庫破りを開始して三分後には異常を検知した装置が最寄りの警察に緊急信号を発信し、
通報装置が破壊されていたとしても、十分以内には警官が到着することになっている。
三十分が経つ頃には、警察本署から選りすぐりの対強盗専門の警官隊が派遣され、銀行が包囲される。

長らく出し渋っていた資金を出すことを決心させたのは、彼の心が良心を取り戻したからではなく、
顧客が預け入れた金を毎日少しずつ懐に入れることで手に入れた莫大な資産が噂となり、
こつこつと貯めた金を奪いに来る暴漢を恐れたためだというのがほぼ紛れもない事実として、強盗達のもとに流れ込んできた。
そして店長はその噂が流れていることを知り、周囲の全てを疑い始めた。

裏切り者がどこかにいて、金を狙う者がどこかにいる。
家族も、友人も信じられない。
疑心暗鬼となり、自宅にいつ強盗が来るか分からない恐怖が、彼の決断を促し、彼のためとも言える高いセキュリティ能力を持つ金庫が導入されることになったのだ。
従業員が聞かされていた金庫の構造やシステムとはまるで異なる物が取り付けられ、それは、
本格的な機材を用意しても知識と策が無ければ決して生きて中を見ることは出来ない仕組みだった。

そればかりは強盗達の耳にも届かず、情報として手に入れることが出来なかった問題だった。
金庫を守る要は、生体認証システムにあった。
特定の人間を鍵とするそのシステムは、ただ、生きた人間をその場に連れてくればいいだけでなく、人間の精神状態に反応するように作られた極めて高性能な物だった。
例えば店長が命の危険にさらされている時、金庫の鍵は決して開くことはない。

同様に不安や焦り、怒りなどの感情でも過敏に反応するシステムは、店長が心から安心している時でなければ開かないように設定されていた。
ジョンとチョコレートの二組は武器を揃えたものの、金庫を開くための道具をバーナーとドリルしか用意していなかった。
バーナーで金庫を開こうとすれば警報が鳴り響き、ドリルを使えば扉が開くことは二度となくなる。
どちらの道具も、全く無意味な物だった。

もしもその件で彼らが言い訳をする余地があるとしたら、聞かされていた事前の情報とはまるで違うという事だけだった。
更新された金庫の情報を持っているゴルディたちは、今、この店の中で店長を除いた金庫を開け得る唯一の存在だった。
ゴルディに逆らえば金を手に入れる代わりに刑務所、もしくは墓穴行きになってしまう。
二組の強盗を従える男達は己の立場を理解し、余計なことを考えて撃ち合いになる事を回避することにした。

賢明な考えであることは誰の目にも明らかだ。
だが、彼らには金庫の問題以上に大きな誤算が一つあった。

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12以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:33:37.397ID:NVe9EmnF0
sien

13以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:33:56.997ID:XQwBnzfd0
監禁されてから二十分が経過した時、人質の中に動きがあった。
男子トイレに監禁されている五人の男の内、一人がゆっくりと立ち上がり、見張りの人間に何かを訴えかけたのである。
だが口のダクトテープのせいで何を話そうとしているのかは分からない。
もごもごと声にならない声を出す様は、あまり気分のいいものではない。

目出し帽を被った強盗は苛立ちながら、男の傍に近寄る。

( 0"ゞ0)「何だ?」

男は相変わらずもごもごと何かを言おうとするが、何を言おうとしているのか全く理解が出来ない。
男はブロンドの短髪をライオンの鬣のように逆立たせ、黒いジャケットを着ていた。
金持ちには見えない。
どちらかというと、場末のチンピラの類だ。

( 0"ゞ0)「くそっ、だから何だ!」

依然として男はもごもごと何かを言うだけで、別の手段で伝えようとする誠意も見られない。
もしもこの時、強盗が男の瞳を注視していれば、この後に起こった全ての事態を回避できたかもしれない。
しかしながら、それは仮定の話にすぎず、決して実現しなかった夢物語でしかない。
反抗的で、決して絶望などしていない獣の瞳を見逃した時点で、強盗の命運は決まっていたのだから。

哀れな末路を辿る事を知らない強盗はダクトテープを乱暴に剥がし、男に発言を許す。

(,,゚Д゚)「糞をしたいんだが」

そう言って、男は個室のトイレを顎で指した。
態度の大きさが気に入らないが、ここで粗相をされて他の人質が恐怖とは別のパニックに陥られても困る。

( 0"ゞ0)「さっさと済ませろよ」

だが男は数歩進んで、扉の前で立ち止まった。

(,,゚Д゚)「扉を開けてくれないラギか?」

( 0"ゞ0)「……糞野郎が」

渋々扉を開き、男を中に入れる。
しかし、扉が閉まってすぐに開いた。

(,,゚Д゚)「これじゃあズボンも降ろせないし、ケツも拭けないラギ。
    代わりにやってくれるラギ?」

( 0"ゞ0)「ちっ、余計なことするんじゃねぇぞ」

結束バンドを切り、男の両手を解放する。
これぐらいしても仕方がないと自分に言い聞かせる。
銃を前にすれば腕自慢であろうとも、無駄な抵抗をするはずがない。
銃は肉体を制する。

肉体を制すれば、後は、心を制することが出来る。
十分な筋力を持たない人間でも、銃爪さえ引ければ大男やグリズリーを殺せる。
男が個室に籠り、内側から鍵をかける。

「ふんぬっ!! うおおおぉぉぉ!!
ぬっふううう!!」

少しして、男が呻く声が響いた。
それも、思わず耳を塞ぎたくなるような不愉快な声を、大音量で。

14以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:41:46.370ID:OJwY2uUdr
しえんた

15以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:45:08.809ID:XQwBnzfd0
( 0"ゞ0)「おい、うるさいぞ!」

だが男は一向に呻き声を止めようとしない。
これでは最悪だ。
音だけで人を不快な気分にさせ、今にも銃爪を引きそうになる。
ここで銃爪を引いて人質を殺せば、金庫を開ける事が出来なくなると聞かされていたため、強盗は怒鳴る事しかできなかった。

( 0"ゞ0)「静かにしろ!」

「おい、どうした?」

トイレの外を見張っている別の仲間が扉越しに声をかけてきた。
流石に、突然声を荒げれば心配もするだろう。
扉に近づいていき、小声で報告をする。

( 0"ゞ0)「あ、あぁ、何でもない。
      一人トイレで気張ってうるさいだけだ」

「あああ゛っ!!」

それを肯定するかのように、再び男の苦しげな声が個室から聞こえてきた。
極めて不愉快な声だった。

「分かった」

同情するような声がかけられ、男は突如として怒りを覚えた。
どうして文字通りの糞野郎のせいで同情されなければならないのか。
この狭い空間で何が悲しくて男の呻き声を聞かされ続けなければならないのか。
今にも悪臭が漂ってきそうな気配に、男の堪忍袋の緒が切れた。

跫音荒く踵を返し、個室の扉を開こうとするも、鍵がかかっているために開けない。
銃で鍵を打ち壊そうとも思ったが、銃声の問題を考えるとそう楽観的な行動も出来ない。
仕方なく扉をこじ開けようとして、そこで男は己の愚に気付くことが出来なかった。
突如として扉が開かれ、中から出てきた男の拳が正確無比に強盗の喉仏を潰した。

(,,゚Д゚)「……あばよ」

声を奪われた強盗は、最早、自分の身に何が起きたのかを理解することも出来ず、掠れた声で喘ぐだけだった。
何が起きたのか。
何が、どうして、こうなっているのか。
激痛と苦痛のせいで頭が混乱し、思考がまともに出来ない。

個室に引き込まれた強盗はそのまま首の骨を折られ、命を絶たれた。
彼が生涯最後に上げた小さな悲鳴は外の仲間にも聞こえていたが、それは、トイレの中で気張る男の唸り声だと思われて気にもかけられなかった。

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その日を最悪の日として認識しなかったのは、恐らく、店の中でただ一人だけだっただろう。

仕事でその場に居合わせた一人の刑事にとっては、最高の日だった。
その日、その刑事は日頃の素行問題のために本部から事件とは無縁の田舎町に転勤を命ぜられてから一ヵ月目を迎えていた。
事件が無いのは何よりだが、刑事にとって事件の無い日常はあまりにも刺激が不足しているだけでなく、自分が仕事をしているという実感を得られない不満が募る時間でしかなかった。
彼は平和を満喫するために警官になったのではない。

世界から少しでも悪人が減る事を心から願い、そのための手段を選ばないために誤解されているだけの善良な警官なのだ。
事実、彼が解決した事件の数は提出した始末書の枚数よりも遥かに多い。
しかし、彼が本部に支払わせた弾薬の費用はそれを合算した物を上回っていた。
トラギコ・マウンテンライトにとって、粗暴な言動のために誤解をされるのは日常茶飯事だった。

(’e’)「トラギコ、お前この紙は何だ」

16以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:48:39.694ID:0u7bIXVJa
しえん

17以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:53:18.708ID:XQwBnzfd0
(,,゚Д゚)「請求書ラギ。見て分からないってことは、老眼鏡を買った方がいいラギよ」

(’e’)「そうじゃねぇよ。請求額の話だよ。
   七千ドル、ってなんだ。豪邸でも建てる気か?」

(,,゚Д゚)「先月カジノを潰した時のやつラギ。
    安心するラギ。今月はまだ千五百ドルラギよ」

(’e’)「……あのな」

その日々が十年も続けば、流石に慣れてくる。
そして嫌味な言葉と共に転勤を申し渡されることについても慣れており、辺境の地に飛ばされてはそこでの仕事を十分にこなし、本部であるジュスティアにまた舞い戻ってくるのであった。
世界には多くの街があるが、ジュスティアはその中でも五指に入る程の巨大な都市であり、力を持つ街だ。
正義の都、として世界に知れ渡るその名が示す通り、ジュスティアは世界中に秩序をもたらすことこそを最大の目的とし、世界で活躍する警察組織の本拠地としてその名を轟かせている。

現存する警察という組織は、大昔の組織と存在目的を知る人間からしたらかなり様変わりしていた。
警察は派遣組織となり、街毎に定められたルールを守るための抑止力となった。
派遣型の警官は街が税金を用いて素人を訓練して雇うよりもよほど効率が良く、また、地元の人間以外が担当することで汚職などの腐敗に対しても極めて強い効果があった。
問題を起こした警官はすぐに別の警官と交換することも出来るとあって、世界中の街には秩序を守るためのジュスティア警察の支署があった。

無論、警察を必要としない街は独自の警備体制を敷いており、その影響下にない事もあるが、ジュスティア警察の治安維持力の高さが過小評価されることはなかった。
そして、ミニマルにも警察は派遣されていたが、この町は極めて小さく、税収が期待できない事と町長の希望もあって、警官は僅か一名しか派遣されていなかった。
それも、引退間近の老齢の警官で、強盗に対して武力で対抗できるような状態ではなかった。
しかしこの町は狭いが故に何か悪さをすればたちまち近所の噂話となり、一時間も経過すれば悪事を知らぬ者はいなくなるという、
人間同士が作り出したネットワークが防犯装置の役割を果たしている幸運があった。

警察がいなくても自警団がすでに町の中には存在しており、警官がわざわざ動く必要もなかった。
それでも税金が治安維持の名目で警察の契約費として使われているのは、万が一、自警団に対応が出来ないような事が発生した場合を想定してのことだった。
町民の中には不要の税、と不満を口にする者もいたが、それが過ちだったことはこの日の事件が証明することになる。
第三者機関の目が無い治安維持には大きな欠点がある。

それは、昔から知っている人間同士であるため、悪事を働いたり考えたりする人間はいないと考える、この時代にそぐわない極めて楽観的な前提があるのだ。
町長はそれを理解しており、何度反対意見を言われても頑なにジュスティア警察との契約を更新し続けた。
実際問題として、この町にはよからぬ考えを持つ人間がいた。
その人間が銀行強盗達に情報を売ることで強盗が発生し、町の秩序は定期的に乱れることになった。

情報がならず者に売られているということは疑いようのない事実であり、すでに派遣されていた警官の無能さ――本人と本部の両方――が重要な状況証拠を無視していたことになる。
そして、前任者の引退時期と、トラギコの始末書の枚数が百枚を突破したことが重なり、こうして派遣されたのだろう。
つまるところ、トラギコの転勤は尻拭いも兼ねていたというわけなのだ。
この町に赴任してからトラギコは三件連続で発生した銀行強盗について調べ、銀行内部の人間が情報を流しているのだと確信していた。

ほとんどの場合が客の少なく、金庫に金が残っているタイミングを狙われている。
これは紛れもなくそれを知らせる者がいる証拠であり、強盗達がその情報を基に動いている事を裏付けるものだった。
問題は、誰が情報を流しているのかを突き止める事だった。
何度も内部の人間の情報を要求したが、店長は頑なにそれを拒否した。

(,,゚Д゚)「何で情報を出さねぇラギ? 俺をなめてるラギ?」

彡(゚)(゚)「従業員を預かる身として、刑事さんの要求は拒否するで」

18以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:58:52.938ID:NVe9EmnF0
sienn

19以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 20:59:04.832ID:XQwBnzfd0
曰く、プライバシーを守るのは店長として当然の義務だとの事だったが、正論であるが故にそれ以上踏み込むことは出来なかった。
最初の強盗から今に至るまで勤務を続けている人間の身辺調査を行うも、やはり、答えに辿り着けるような情報は得られなかった。
該当者は全員、前科持ちだったのである。

だが、前科者を調査する彼がまるで不審者であるかのような噂が町で流れかける始末であり、この町で協力的な人間を見つけ出すことは絶望的だと判断した。
そこで今日はその調査として従業員の言動を観察しようと、朝から意味もなく店内で文庫本を読んでいたのだが、本に栞を挟む間もなく四件目の銀行強盗が発生してしまった。
僥倖と言えば僥倖だが、巻き込まれるのはやはり気に入らなかった。
確かに、店内で怪しげな人間は目星をつけていたが、まさか、その全員が強盗だとは思いもしなかった。

事件発生直後から見続けているが、犯人たちの人質の扱い方から察するに、内通者は強盗達と顔合わせや声のやり取りを一切していないのだと推測が出来た。
もしも顔や声が相手に分かっているのであれば、他の人質と比べて扱いが異なってくるはずだからだ。
その兆候も仕草もない事からそう判断し、内通者が容易に見つけられないと内心で嘆息した。
だが嘆く事ばかりではなかった。

強盗達の落ち度であり、トラギコにとっての幸運であったのは、銃火器類を没収されたのは警備員だけで、居合わせた客達については持ち物を調べる事さえしなかった事だ。
三組の強盗が鉢合わせれば、彼らがそれを失念するのも無理のない話だ。
だとしても、一つの疑問が湧き出てくる。
どうして強盗達に、警官であるトラギコが店内にいると知られなかったのか。

警官の人相や特徴などを伝えることが成功していなかった、と考えるのが自然だ。
それはつまり、強盗達と接触した従業員はトラギコが配属されるよりも前に強盗達と最後のやり取りを終えていることを意味していた。
道理で情報漏えいの尻尾が掴めないはずだ。
彼が掴もうとしていた足取りはすでに消え去り、後は事件が起きるだけとなっていたのだ。

しかし、赴任してきて一か月で事件が起こるとは、流石に本部の人間は勿論だが町の人間にとっても予想できなかっただろう。
運の良し悪しで言えば、トラギコは極めて運がいいのだと考えることにした。
この町に昔から残る強盗の問題を解決すれば、早々に本部に戻る事が出来る。
本部に戻れば、労せずにやりがいのある仕事――即ち、誰にでも解決できるような生易しい事件ではなく、実力と経験を生かして己の能力を最大毛発揮できる――が転がり込んでくる。

そのためにもこの事件を一刻も早く終わらせ、本部に戻ることに意識を向けるべきだ。
彼の懐で静かに沈黙を保つのは、十年前に警官になって受け取り、数々の事件を共に過ごしたベレッタM8000。
ロータリーバレルと呼ばれる独自の機構を持つ自動拳銃であり、その癖のない使い勝手の良さと小ぶりな拳銃はこれまでに幾度となく彼の命を救い、人の命を奪ってきた。
彼にとって唯一、今日まで文句一つ言わずに共に仕事をしてくれる寡黙な相棒でもあった。

今回もこの銃を使わなければこの状況は打破できないだろう。
むしろ、銃を使わずにこの事件を解決できる人間がいるのであれば、この世界は今とは別の形で進歩したことに違いない。
トラギコは殺したばかりの男から仮面や服を奪い、カービンライフルを手に入れた。
これだけあればどうにか自分一人が逃げるには十分だが、目の前の事件に背を向ければ警察官ではなくなってしまう。

目の前にある事件を解決してこその警官なのだ。
では解決とは何か。
強盗を一人残らず殲滅することだろうか。
否。

強盗達に情報を売り渡している人間を見つけ出し、その人間と共に強盗達を一網打尽にする事こそが、本当の意味での事件解決になる。
そうしなければ、間違いなく五度目の強盗が起きる事だろう。
強盗達は三つのグループに分かれており、各グループの見分け方は服装、もしくは武器だけが基準となる。
それはトラギコに限らず、強盗達にとってもそうだ。

20以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:04:58.015ID:XQwBnzfd0
彼らは直接顔を見る事の出来ない状態で対面しているため、服装と武器がほぼ唯一の判断材料なのだ。
声については、同じグループの人間でない限りは分からないだろう。
つまり、余計な言葉を口にしない限りはこうして服を奪うだけでもかなりの偽装効果が期待できるというわけだ。
服装が異なるグループに対しては、まず間違いなくこちらの身分を隠し通せる。

男から奪った服と装備から判断すると、二組目のグループだろうか。
トラギコが確認した限り、カービンライフルを装備していたのは二組目の強盗達で、化物の仮面を被っていたのも彼等だけだった。
ある程度の装備は判断できたが、最後に出てきた三組目の強盗達の装備はまだ判断が出来ずにいた。
彼らの恰好は極めて軽装で、銃は信頼性の高いコルト自動拳銃だけを手にしていた。

後は、防弾着とボディバッグを背負っていたぐらいだろうか。
本来は出入りが出来ないようになっている裏口方面から出現をしたことから、店内のどこかに制圧力の高い銃器を隠してある可能性は大いに考えられた。
故に、特に警戒するべきは三組目の強盗だ。
戦力が不明であるという事は、相手の事が分かっていないという事。

制圧すべき順番は最後か最初になるだろう。
識別しやすくするため、トラギコは一組目の強盗をアルファ、二組目をブラボー、三組目をチャーリーと考えることにした。
そして今殺したのはブラボーの組は比較的装備が充実している強盗だったおかげで、ライフルを得られたのは極めて幸先がいい。
正しく使えばライフル一挺で十人を相手に戦う事も出来る。

正しく、そして正確に使う事が出来れば、一見して不可能な状況をも逆転し得るのが、力の象徴でもあるライフルなのだ。
身ぐるみを剥いだ死体を便座のわきに退けて、トラギコは個室から姿を現した。
それを見た人質たちがもごもごと喚くので、トラギコは更に声を荒げさせるために奪い取った自動小銃の銃腔をわざと彼らに向けた。
より大きな声が生まれ、それが中々収まらないことに何かを感じたのか、外に立っていた男が中に入ってきた。

トラギコは内心でほくそえんだ。
獲物が網にかかった。

( 0"ゞ0)「今度は何だ?」

半ばあきれた様な声で尋ねた男に対し、トラギコは声を出して返事をする愚を犯さなかった。
先ほどこの二人は声を交わしていたし、何よりその男の服装はブラボーの物だった。
ここでトラギコが声を発すれば、味方ではないことが露呈する。
代わりにトラギコは顎でトイレの個室を指し、まるでそこに悲鳴の正体があるかのような、意味深な仕草だった。

事実、そこを見れば悲鳴を上げたくもなるだろうが、同時に、事態が急変していることに気付くだろう。

( 0"ゞ0)「あ?」

訝しげな声を上げつつ、男は個室へと近づく。
そこが死への入り口だとも気付かず、無防備な背中をトラギコに晒したまま、個室の扉に手を伸ばす。
そして、男の死が確定した。
背後に立っていたトラギコは死体から奪ったベルトで男の首を締めあげて声と酸素の供給を奪い、便器の中に色の変わり始めた顔を押し込んだ。

汚水に溺れて死ぬというのは、最悪の気分だろう。
本当に最悪の気分に違いない。
必死に逃れようともがく男の手が便座のレバーを引き、水を流した。
だがそれは、男が苦しむ時間をいたずらに長引かせ、死に水が綺麗な物に変えただけだった。

数分で男の手足は動かなくなり、そして、心臓の鼓動も止まった。
トラギコは念のために首をきつく締めあげたままで死体を放置し、死体からライフルの弾倉を奪った。
ライフルにとって弾は命だ。
弾の無い銃の使い道は打突ぐらいしかない。

銃で武装する強盗達を相手に銃なしで挑んで生還出来るのはフィクションの世界だけだ。
トラギコはそんな非現実的な考えを思いつくほど耄碌はしていないし、自分の力を過信してもいない。
銃を使う人間には銃を使い、ナイフを使う人間にも銃を使う慎重な男だ。
爆薬があれば一番いいのだが、それを使うと周囲への被害が拡大する恐れがあるので、機関銃が最も好ましい。

21以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:10:03.798ID:XQwBnzfd0
大口径の機関銃であればコンクリート壁を突き破って撃ち殺せる。
車を楯にされても、その向こう側にまで銃弾の雨を降らせることが出来るのだ。
瞬く間に死体を二つ作り上げたトラギコに命の危険を感じた客達が喚き、立ち上がり、逃げようとする。
それをトラギコは非情にも蹴り飛ばして制止させた。

ここで彼らが逃げれば必然、異常を察知した強盗達が口封じに動き出してしまう。
それだけでなく、人質の中にいる内通者までも殺されかねない。
それでは駄目なのだ。
罪には罰を。

行いには相応の報いが与えられなければならない。

( 0"ゞ0)「駄目だ、ここにいろ」

有無を言わさない口調で、物理的に反論さえできない客達に対し、トラギコは淡々と共に銃腔を突きつけた。
この場を離れれば逃げ出す客も出てくるだろうから、ドアを外側から封鎖するしかなさそうだ。
トイレの外に出て、掃除用具入れからビニール製のホースを取り出し、戸が開かないように外側からきつく固定した。
女トイレを少し覗き込んだが、見張りはすでにいなかった。

恐らくではあるが、女たちに見張りを割くのを止め、入り口を見張る人間に兼任させたのだろう。
トイレに割り当てられた監視役は扉の前にいた見張りも合わせて二人だけのようだった。
一見すれば僥倖とも言える布陣だが、冷静に考えればそうではないことぐらい分かる。
地下から人が動く音や指示を出す声が聞こえてきており、多くの強盗が一か所に集まっていることが容易に想像できる。

それはつまり、金庫破りに手間取っているのもそうだが、相手が絶対安全な場所に籠城している事を意味していた。
この銀行の金庫は地下にあり、少なくとも出入り口は一か所だけだ。
そうなると、どれだけ重武装の警官隊が突入してきても、警戒するべき場所は一か所だけであり、そこにだけ意識を向けていれば奇襲をかけられる心配はないのだ。
店長を人質に取れば人質交渉も可能だ。

戦力を集中されたことにより、突破は難しくなるだろう。
ライフルを持っているのは相手も同じであり、トラギコ一人で無計画に行ったところで人質として捕まる姿が目に見えている。
しかし解せない。
金庫を突破することに対し、何故苦戦するのか。

下調べをしていないはずがないし、事前の情報があるにもかかわらず、どうしてここまで手間がかかっているのだろうか。
思考を巡らせる中、彼の靴底が僅かに振動を感じ取った。

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最大の誤算は、金庫その物にあった。

ゴルディ――三組目の強盗――を統率する男が入手した情報では、金庫の側面は比較的壁が薄く、高出力のバーナーなどで焼き切れるという話だった。
ところが二日前、隣の空き家を借りて地下を掘り進め、いざ金庫の壁を破ろうとした時、問題が起きた。
それは、バーナーの火では壁に焦げ目一つ付けられないという現実だった。
第二の計画として考えていた正面からの突破に踏み切って初めて、その原因が分かった。

従業員にも知らされていない改修が密かに行われ、金庫の強度は情報の数倍にも強化され、工具で突破するのは不可能だった。
例えその場に戦車を持ってきたとしても、まるで役に立たないだろう。
そうなると、鍵を開け得るのは唯一店長しかいない。
小心者でありながらも守銭奴の店長を如何にして緊張から解きほぐし、金庫の鍵を開けさせるかが問題だった。

22以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:13:51.681ID:0u7bIXVJa
しえん

23以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:18:24.176ID:XQwBnzfd0
更に考えなければならないのは、金庫に別途仕掛けられている警報装置だった。
最寄りの警察署はこの町にあるが、一人だけだからまず問題ではない。
問題なのは次の段階で出てくる存在だ。
ミニマルはジュスティアから西に五十キロほどの場所に在り、重装備の警官隊が本部から派遣されたとしたら、三十分ほどで到着するだろう。

そうなれば、彼らは正義の名の元に犯人を全員殺すだろう。
金庫がある場所は一方通行で確かに防衛には向いているが、同時に逃げ場がなくなるという問題があり、ガスを流し込まれれば一網打尽にされる可能性がある。
金庫を突破するのにかけられる時間は、一時間が限度だろう。
それ以上時間がかかれば、流石に事態に気付いた周辺住民から警察に連絡がいく。

その時間の中で店長にはいつもと同じ冷静さを取り戻してもらわなければならない。
扉の破壊が不可能ならば、正攻法で攻めるしかないのだ。
だが、蚤の心臓を持つ店長が一時間以内に平穏を感じられるかと言えば、恐らく答えはノーだ。
この男、頭は悪いが切れ者ではある。

己の特性である臆病を生かしたセキュリティを用い、万が一の際にはそれが矛盾なく機能するようにしていたのだ。
感心はするが、歓迎は出来ない。
三つの強盗が一堂に会していながら、誰一人としてこの状況を打破できる物を持っていない。
そして尚悪しきことに、この現場を統率する立場にあるのはゴルディの頭である彼であり、
もしもこの状況を打開できる一手が無いと知られてしまえば、取り分のリセットはもとより、こうして肩を並べている事さえなくなりかねない。

考えなければならない。
不可能とも思える状況を変えるには、そもそもの前提を変えなければならない。
では、それをどう変えるのか。
前提とは何か。

ゴルディリーダーは頭を働かせ、最善の答えを導き出すべく時間を稼がなければならなかった。
無論、時間をかけたところで答えが出せる訳でもないが、無いよりはましである。

目の前に立ちはだかる金庫は高さ三メートルを誇り、全面を特殊合金で覆った威圧的な物で、唯一の出入り口は見るからに堅牢そうな丸型の扉で塞がれている。
扉の中心には極めてシンプルなコンソールが埋め込まれており、数字と指紋、そして音声の確認で開閉する仕組みだった。
これをどうにかしなければ、目の前で彼らを待っている金は一セントだって手に入らない。
その扉を開ける唯一の鍵は、扉の前でうずくまって仔犬のように震えてまるで役に立たない。

一度試しに開けさせようとしたが、当然、エラーが出て扉は開かなかった。
ここまで怯えている人間が生体錠として役に立つはずもなく、システムの性能の高さを痛感させられるだけに終わった。
あと一度しくじれば、すぐさま警察に通報が行くという。
これは極めて好ましくない状況であり、どうにか打破しなければならない状況だった。

時間。
そう、時間がいつだって問題なのだ。
何事にもリミットがあるように、彼らの仕事にも制限時間がある。
この場合、警察と遭遇する前に金を取らずに逃げるか、それとも金を手に入れて逃げるか、はたまた、何も得ずに捕まるか。

捕まれば重罰は逃れられないだろう。
店長に対する脅しが効かないのに、一体どうすればいいのかと考えが頭の中を巡り続けた。
そして、一つの結論に至った。

(::0::0::)「薬を使うしかないな」

全ての作戦は万が一を考え、不要とも言えるような備えをして初めて策となる。
彼が備えていたのは、逮捕されることが確定した段階、つまり、金庫の中身を手に入れようと入れまいと、警官隊に包囲された時に自分達の量刑が軽くなるようにすることだった。
犯罪行為が原因で逮捕された場合、この町で適応されるのは一般的な法律だ。
判決は逮捕された時の精神状態を考慮して下されるため、薬物などで正常な判断状況にない場合は軽めの刑に処せられる。

短期的ではあるが、確かな効果を発揮する薬物を用意していたのは、そんな万が一に備えての為だった。

(::0::0::)「店長、悪いがあんたにはもう少し素直になってもらうぞ」

彡(゚)(゚) 「い、いやや……」

24以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:26:04.959ID:XQwBnzfd0
そう言って、胸のポケットからピルケースを取り出して、白い錠剤を一つ手に取った。
これが一錠あれば、どれだけ鍛え上げた人間でも半日は極限のリラックス状態に陥り、正常な思考力が奪われる。
この薬の素晴らしいところは依存性が低く、一錠以内であれば後遺症もなく済む点にある。
流石に二錠飲めば後遺症は勿論だが依存症になる可能性が極めて高くなる。

(::0::0::)「無理やり飲まされるのがいいならそうするが、自分で飲んだ方が楽だぞ。
     それに、周囲への言い訳も薬のせいに出来るからな」

甘い毒を吐いて協力させようとする様は、まるで聖書に書かれている禁断の果実を食べるように唆した蛇の気分だったが、実際、その通りだった。
ここで店長がそうしなければ互いに進展はなく、最良の結果を導き出せない。
店長は相変わらず顔面蒼白ではあったが、辛うじて頷いているのだと分かるだけのリアクションを見せる事は出来た。
錠剤を手渡し、それを水で飲み下させる。

効果はすぐに表れ始めた。
まず、店長の体の震えが止まり、全身に入っていた力が緩んだ。
そして次第に顔に血の気が戻り、乾いた笑いが口から洩れるようになった。
良い兆候だった。

酒で全身が弛緩したかのように力を失いつつある店長を扉の前に運ばせ、扉を開くコードを入力させる。
そして、強盗開始から三十分後。
固く閉ざされていた金庫の扉がゆっくりと開いた。
鍵は機能を果たしたのだ。

(::0::0::)「ハレルヤ、ってな!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

地下に続く階段を慎重に下りながら、トラギコは内心で毒づいていた。
先ほど足元で感じた振動は、やはり金庫の扉が開いた際に生じた物で、強盗達は嬉々として金庫の中に入って歓声を上げている。
階段は金庫に通じる唯一の道であるため、姿を隠したまま金庫へと近づくことは出来ない。
扉の影に隠れて中を見るのが精いっぱいだ。

だが、今のトラギコは彼らの仲間と同じ格好をしているため、口を開かない限りは騙し通すことが出来るかもしれない。
ここで金庫の中身を強盗達に奪わせ、出入り口を封鎖するという手もあるが、算段もないままにそれを実行するのは極めて危険な手段であることは間違いない。
問題となるのはチャーリーの強盗達だった。
彼らが持つ装備の規模がまだ不明である以上、この金庫に通じる階段にある二か所の扉の耐久度が十分であるかは不明だ。

見た限りでは、その厚みはショットガンの一撃で蝶番を破壊されかねない物だった。
扉が頼りない以上、閉じ込めることは計算に入れない方がいい。
何よりも恐ろしいのは扉を破壊した後、強盗達がどのように動くのかが分からない事だ。
怒り狂って近所の民家に立て籠もり、死傷者が出ないとも限らない。

そうなれば、事前に人質を逃がしたところでさほど意味はない。
不特定多数の死傷者の発生を考えれば、上限の決まった中で完結させた方がいいだろう。
そのためには策が必要だ。
上に戻り、密かに警官隊の派遣を要請するのが無難な一手だが、事件解決には程遠いものになる。

呼べば正義の味方を声高に叫ぶ人間が来るが、到着までには約三十分かかる。
それまでの間に金庫の中身は空っぽになり、強盗達は大手を振って町から逃げおおせてしまう確率は、極めて高い。
タイミングが極めて難しいのと同時に、高いリスクが付きまとう一手でもある。
それに、トラギコは是が非でも内通者を探し出さなければ気が済まなかった。

人質にはもう少しの間、人質でいてもらわなければならない。
客として訪れていた人間の中に、私用で来ていた銀行の関係者がいないとも限らないためだ。
この状況下おいて彼にとって人質は事件の被害者ではなく、容疑者としてしか目に映っていなかった。
この考え方が彼の短所であり、長所でもあった。

25以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:27:40.542ID:0u7bIXVJa
支援

26以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:31:55.556ID:XQwBnzfd0
事件に対して見せる執着心は、獲物を前にした肉食獣と同じになる。
他の犠牲については棚に上げ、己の欲を優先する。
その為であれば障害となる物全てを破壊し、食いちぎり、踏み躙る。
今回は人質となった人間全員が彼にとっての容疑者である以上、逃がすわけにはいかない。

例えその中の一人だけが対象だとしても、そんなものは些細な問題でしかないのだ。
この暴力的かつ粗暴な性格と事件への取り組み方を見て一部の同僚達は皮肉と敬意を込めて、犯罪者たちは恐怖の意を込めて彼を虎≠ニ呼ぶのも無理からぬ話である。
策を練っている彼の脳裏に、悪魔的発想の妙案と事件の全容が一瞬の内に浮かんだ。
下りかけていた階段を戻り、人のいない、静まり返った店内にある非常用の通報装置を作動させた。

これは静音式で、スイッチが押された音さえ発生しない優れものだ。
これでジュスティアに連絡が行き、最短で三十分後には重武装の警官隊が到着することになる。
続いて、人質たちのいるトイレへと向かった。
まずは女子トイレに行き、そこで怯えたままの女たちをコルトカービンライフルの銃腔で脅して立ち上がらせる。

彼女達はトラギコの正体に気付いていないため、何の疑問もなくその指示に従った。
続いて、男子トイレの人質たちも同様にして立ち上がらせ、女たちと合流させる。
合計十一人の人質たちは羊飼いに誘導されるようにして地下金庫室への扉の前に集められ、そして、トラギコは無言のまま彼らの足元に向けて三発の銃弾を放った。
地面が爆ぜ、小さな破片が人質たちの脚にぶつかり、恐怖が広がった。

我先にと唯一の道である地下へと殺到し、押合い、転がりながら階段を下って行く。
その背中に銃腔を向け、トラギコは二発撃つ。
今度は天井と壁に銃痕を残し、人質たちが諦めずに地下へと向かい続けるように誘導した。

(::(・)::(・):)「な、何だ?!」

銃声と共に階段から人質たちが必死の形相で降りて来たのを見た強盗の一人――恰好から見て、アルファの一味――が動揺を露わにし、銃を構える。
金庫前で見張りをするのはその男だけだった。
成程、トラギコの見立てた通り彼らは少しでも早く金を持ち出せるようにと見張りを最小限にし、作業する人間を最大限にしたのだ。
良い判断だ。

トラギコは勝算の高い賭けに出た。

( 0"ゞ0)「警察だ!! こいつらを早く金庫に入れるんだ、早く!!」

これはトラギコの声を知らないはずという憶測と、突然の状況変化による混乱を利用した彼の迫真の演技であり、それ見込んだ通りの効果を生んだ。
誰も降りてくることなどない階段にライフルの銃腔を向けながら叫ぶトラギコに気圧され、アルファの男は言われるがまま、人質たちを金庫内へと誘導した。
全員が金庫に入り、トラギコは見張りをしていた男の肩を叩いて強い口調で告げた。

( 0"ゞ0)「俺が扉を閉める。
      籠城すれば交渉の余地があるはずだ、急げ!」

芝居がかった台詞に、言っていて笑い出さないか自分でも不安だったが、男は何度も頷いて、金庫に入って扉を閉めた。
分厚い扉が閉まり切る直前、チャーリー・リーダーの動揺した声が聞こえてきたが、その時にはもう扉は完全に締め切られた後だった。
金庫の電子錠に出鱈目な数字を入れ、わざとロックをかけさせる。
これで、金庫内に容疑者と強盗を閉じ込めることに成功した。

金は一セントも奪われていない。
文字通り、一網打尽である。
だがこれで解決することにはならない。
事件を二度と起こさないためにも、全ての銃爪となる人物との決着をつけなければならない。

仮面を脱ぎ捨て、警察の身分証を店長に見せた。

(,,゚Д゚)「俺はジュスティア警察、派遣警官トラギコだ。
    ……店長さんよ、あんたが内通者の黒幕ラギね?」

彡(^)(^)「はい?」

27以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:36:15.636ID:XQwBnzfd0
明らかに薬で正常な判断力を奪われ、地面に座り込んでいる店長にトラギコはそう告げた。
一瞬、店長の目に鋭い光が浮かんだが、薬の力のせいでそれは霧散した。
これまでの強盗被害による大きな損害は、実際のところ、銀行を経営する店長にはあまりなかった。
常識的に銀行の金庫には常に保険が掛けられており、その保険を最大限に活用するためには自分が被害者であるという事を周知しなければならない。

実際に彼が失った金はなく、奪われたのは客の金でしかない。
その結果、彼は数度の強盗被害を受けることによって保険金を手に入れ、最新式の金庫を導入する際の資金源とした。
それは当然、客が預けた金も用いることで実現した目的であり、噂として流布されていた彼の汚れた金の保管所を最も安く手に入れるための計画だったと、トラギコは推理した。
しかし、自分で情報を流しては足がつく上に裏切られた際に自らの首を締める事になる。

そこで彼は、自分の代わりに強盗達に情報を流してくれる人間を作り出すことにした。
意図的に前科のある人間を雇い入れ、情報が流れ出す仕組みを作り出した。
それを知られたくないがために、トラギコによる内偵を拒否したのだろう。
警察を騙そうとするという事は、当然ながら保険屋も騙したはずだ。

保険屋はその本業である処理能力は勿論だが、優れた調査員として真偽を見定める能力も求められる。
その保険屋を騙すためには、一筋縄ではいかない。
彼は銀行の資金を己の金庫利用のために私的に使うため、このような大芝居をすることを考えたのだろう。

彡(^)(^)「証拠がおありなのですか?」

気だるげな目をトラギコに向け、店長は緊張感の欠片もない声で問いを投げかけた。

(,,゚Д゚)「証拠? あぁ、それならそこの金庫の中にさっきしまったラギ」

トラギコが用意したのは証人だった。
店長が誰か一人にだけ情報を流すことは考えうる限り最も不自然な形であり、保険屋が気付かないはずがない。
そこで彼は、従業員全員に金庫の話をしたはずなのだ。
金庫の構造、そして金が溜まるタイミングを。

良識ある従業員であればそれを黙っているが、小金欲しさにその情報を売り渡す人間が混じっていれば、その人間だけが情報を売ってくれる。
店長が指示をしなくても、その人間の性格がそうさせるのである。
つまり、店長の言い分としては信頼して話したところ、従業員に裏切られた、というシナリオが出来上がる。
情報を売った人間も、まさか自分がそうして踊らされていたとは考えもつかなかっただろう。

そんな愚かだからこそ、騙されるのだ。
それを保険屋が調べれば、間違いなく強盗との繋がり、そして店長による情報漏えいが発覚するだろう。
そしてもう一つ、トラギコはある確信があった。

(,,゚Д゚)「あの金庫にある客の金と、あんたの金。
    どうしてかどっちも額が合わないはずラギ。
    例えば、贋金が混じっていたり、誰かの家にそれと同じ金額の金が隠してあったりすれば、嫌でも分かるラギ」

電子制御された帳簿ではあるが、実際問題、金を毎日数える人間はいない。
特に、金貨や銀貨の一部が偽物にすり替わっていたとしても、全額を一度に使わない限りそれに気付くことは出来ない。
それが出来るのは唯一、この銀行を自由にすることのできる店長だけなのだ。
強盗によって金が奪われたとしても、彼らが持ち出すのは贋金であり、本物の金は店長の懐で安全に保管されている。

贋金は保険金によって本物へと変わり、それをまた贋金に変え、強盗に奪わせる。

彡(^)(^)「そんなんは全て憶測やろ。
    憶測では警察は捜査も逮捕も出来ないと記憶しておりますで」

(,,゚Д゚)「あぁ、だから俺は金庫の中身を調べないラギ。俺は、な」

警察が来ていると言われ、大金庫に閉じ込められた強盗達が次にとるべき行動は決まりきっている。
壁中に詰まった全ての金庫を取り出し、預金を奪いつくすことだ。
そうなれば、どの金が誰の金か分からなくなってしまう。
それでいい。

28以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:40:24.910ID:XQwBnzfd0
彼らにはとにかく、金庫の金を全て取り出して混ぜてもらう必要があるのだ。
そうすることで警察は事件終息の際、貨幣の枚数を全て数えた上で必要な金額を顧客たちに返していくことになる。
その途中経過で避けられないのが、真贋の判定だ。
警察官によって入念に調べ上げられ、そして贋金が見つかれば、そこから指紋が採取されることになる。

強盗ではなく、銀行員たちの指紋が付いた贋金が。
そうすれば、贋金は強盗が持ち込んだものではなく、銀行員の手によって金庫に納められたことが証明される。
店長程の人間であれば、自らの手を汚さずに他の人間にその作業を行わせるはずだ。
その入念さが仇となり、店長が事件に関与している証拠を警察に見つけられる切掛けを作ることになる。

彡(^)(^)「詭弁やね。
    それに、貴方が行った行動は警官としてかなり不味いやろ?
    私が訴え出れば、咎められるのは貴方やで」

(,,゚Д゚)「やれるならやってみるラギ。
    俺は精々始末書を書くだけだが、あんたは破滅ラギ」

彡(^)(^)「……ふぅ」

観念した風に、店長が溜息を吐く。

彡(^)(^)「なんぼですか?」

(,,゚Д゚)「何?」

彡(^)(^))「お金ですよ、いくら欲しいんや?」

(,,゚Д゚)「買収するってのか、この俺を?」

店長の目は薬の影響で緩和し切っている。
その奥にある真意を見ようにも、精神状態が安定していない事には分からないが、その発言は間違いなくトラギコを買収する意図を示すものだった。

彡(^)(^)「背に腹は代えられんからな」

腐った警官ならいざ知らず、トラギコに対してその交渉はまるで無意味だ。
金に興味があるのならば、彼は今頃警官ではなくマフィアの道へと進み、勇んで無抵抗な人間達から金品を巻き上げていた事だろう。
だが彼は違う。
金よりも、名誉よりも欲しいものがあるのだ。

(,,゚Д゚)「金はいらねぇ。
    俺が欲しいのは、あんたと強盗に情報を売っていた馬鹿の首だけラギ」

彡(^)(^)「そうですか……残念や」

項垂れ、店長は肩を落とす。
結束バンドで店長の腕を背中で縛り上げ、その場に置き捨てる。
詳しい動機や手口については裁判の場でこの男が喋るはずだ。
小さな町に強盗を呼び寄せたという罪は重く処されることだろう。

今回の場合は訴える人間が町長になる事が想定される。
そうなれば、この銀行の運営権は町長に譲渡され、町が経営することとなる。
血税で賄われるのだから、恐らくはこれまでと違ってまともに運営されるはずだ。
問題はまだ終わっていない。

金庫内に閉じ込めた人質と犯人。
警察本隊が到着するまでの間に、中で殺し合いが行われない事をただ、無責任に願うばかりだ。

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29以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:41:07.746ID:4mPGyURz0
支援

30以下、5ちゃんねb驍ゥらVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:42:40.580ID:XQwBnzfd0
――大金庫内は金の匂いで満ちていた。

閉じ込められたと分かってはいたが、強盗達は冷静に全ての金庫から金品を取り出し、それを分配することにした。
中には貴金属などの装飾品があったが、書類なども紛れており、仕分けは思いのほか時間がかかりそうだった。
強盗達はパニックに陥ることなく、それぞれの仕事を続行することにしていた。
それは全て、ゴルディリーダーの指示だった。

扉が閉められた以上、開けられるのは外部だけになる。
ならば内側で揉めているよりも、時間を有意義に使った方がいいというシンプルな提案だった。
その言葉は彼の仲間だけでなく、居合わせたジョンとチョコレートの二組も同様に安心させた。
人間は緊急時、何かをしていればそれだけで落ち着く事が出来る生き物だ。

一時の夢だとしても大金を扱う愉悦に浸ることぐらい、当然の権利として行使するべきなのだ。
金の分配を手下にやらせている間、ゴルディリーダーはこの金庫から生きて脱出し、金を手に入れる方法を模索していた。
方法は限られている。
警察本隊が呼ばれていると仮定して、後三十分ほどでその策を実行に移せなければ彼らは終わりだ。

刑務所で作業に従事するのであればいいが、臓器や歯を抜かれて男色相手の性奴隷として売られたら死ぬに死ねない。

(::0::0::)「テープはあるか?」

(::0::0::)「はい、あります。ボス」

部下が差し出したダクトテープを受け取る。
量は十分にあった。
後は、実行に移すだけだ。

(::0::0::)「ジョンリーダー、チョコレートリーダー。
     手を貸してくれ」

二人のリーダーを呼び寄せ、これからの手順を説明する。

(::0::0::)「これで人質の目を塞ぐ。
     後は人間の楯にして、この金庫から出るぞ」

その発言は意図的な物だった。
この発言を聞けば、人質は必ず震え上がるはずだからだ。
そうすれば、人間の楯はより一層強い効果を発揮する。
相手が正義の都の番人である警察であれば、尚の事その姿に衝撃を受けて交渉する可能性が増してくる。

例え非人道的な選択肢だとしても、こちらが生きるためには仕方のない方法なのだ。
彼の狙い通り、人質たちは封じられたテープの下で悲鳴を上げた。
逃げようとする者もいたし、失禁する者もいた。
これから彼らには、その哀れな姿を利用した楯になってもらう。

運が良ければ生きられるし、運が悪ければ正義の名の元に彼らは尊い犠牲者として葬られることだろう。
金の分配をある程度のところで切り上げた部下達がダクトテープを手に、容赦なく人質たちの目を塞いだ。
目を塞げば余計な情報が入ってこなくなる。
聴覚情報だけに頼ることで、より一層彼らは恐怖心をあおられていい悲鳴を上げてくれる。

女たちが上げた悲鳴に、ゴルディリーダーは嗜虐心をくすぐられ、性的な興奮を覚えた。
部下達が楯を作っている間、三人のリーダーは声を潜めて話し合いを続けることにした。

(::0::0::)「さっき俺達をここに閉じ込めた男、何者だか分かるか?」

( 0"ゞ0)「さぁ、知らねぇな」

と、ジョンリーダー。

(::(・)::(・):)「……ひょっとして、警官かもな」

31以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:49:57.877ID:XQwBnzfd0
チョコレートリーダーの発言に、ゴルディリーダーは強い関心を抱いた。
確かに、警官であればあの場に居合わせていても反抗的な行動を起こしただろう。
この町に配属される警官は警戒に値しないと考えていたゴルディリーダーの失態だ。
田舎町に気骨のある警官が配備されるという万に一つの可能性が実現することを学び、彼は反省した。

(::0::0::)「だとしたら、あいつのやった事にも説明がつくが……あんな警官、普通じゃねぇ」

大胆な行動はまぁいいだろう。
だが解せないのは、本当に良識のある警官がこのような行動をするかと言う事だ。
人質と犯人を同じ空間に閉じ込めれば、当然、暴行や強姦が起きてもおかしくない。
それが分からないはずがない。

では何者なのだろうか。
こんな、警官とは到底思えない非常識的な行動を起こす人間など、本当に警官なのか。
それとも、正義漢ぶった狂人なのか。
思考が目まぐるしく動くが、今はただ、この状況をどうにかして打破することに専念しなければならない。

本隊が来る前に、全ての手を打たなければ。

(::0::0::)「とにかく、交渉のカードを揃えるぞ」

人質の楯だけでは心もとない。
何か、別のカードが必要になる。
特に考えておきたいのは、万が一に備えて誰をどう切り捨てるか、だ。
ゴルディリーダーは己の部下を切り捨てることに良心の呵責を抱くことはないが、問題となるのは他のグループだ。

誰だって、自分は切り捨てられたくない。
そうなれば、争いの火種となりかねない。
楯を持っていたとしても、内部での争いがもとで内部分裂を起こせば結局、刑務所か墓場行きになる。
予め決めておけばそれも防げる。

グループを指揮する三人が集まっている今、このタイミングでそれとなく話を出してみるのがいいだろう。

(::0::0::)「……殿はどうする?」

殿とはつまり、捨て駒の事。
言葉は違うが、意味合いとしては結局のところ、大勢を助けるための駒でしかない。
軍隊ならまだしも、彼らは銀行強盗。
消えてくれれば自分達の取り分が増える上に、死ぬことで他者に利益を生み出す殿の命を気に掛ける人間はいない。

むしろ死んで初めて役に立つと言ってもいいかもしれない。
ゴルディリーダーの言葉に対し、発言の意図を理解したジョンリーダーは小声で答えた。

( 0"ゞ0)「うちからは二人」

(::(・)::(・):)「なら、こっちは一人だ。
      その代わり、ゴルディからも人数を出してくれ」

率いる部下の数を考えれば、妥当なところだろう。
チョコレートは四人、ジョンは五人、そしてゴルディは合計七人で構成されている。
ならば、ゴルディが出すべき人数は他に合わせるべきだろう。

(::0::0::)「四人、出そう」

これで数は揃う。
そして、取り分について揉めることもないだろう。
運が良ければ殿は役割を見事に果たし、彼らが逃げる時間を稼いでくれる。

32以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:51:02.375ID:4mPGyURz0
支援

33以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:52:41.133ID:XQwBnzfd0
(::(・)::(・):)「指示はその時になったらしよう」

チョコレートリーダーは短く言い、ライフルのセレクターをフルオートに切り替えた。

(::(・)::(・):)「ところで、そっちはコルトだけなのか?」

(::0::0::)「いいや、用意してある」

この強盗をする上で考えたのは、必要な火力だった。
警備員や市民が刃向ってきた際、短機関銃では威力に欠け、ライフルでは取り回しに問題が生じる。
そこで選んだのは、個人防衛火器のKACだった。
短機関銃並に小型でありながらも、防弾着を貫通する威力を持つそれは特殊な弾を使うために高級品ではあるが、今回得られる儲けを考慮して購入した物だった。

ゴルディのチームは全員、ボディバッグの中に銃床を取り外したそれをしまっている。
後は、その時が来たら取り出すだけだ。
人質全員の目を塞ぎ、手足の自由を奪った後に部下達は女の衣服を剥ぎ取り始めた。
悲壮感漂う姿の方が同情を誘いやすい。

正義の味方など、所詮は人間。
正義感が強いというだけで己が誰よりも強いと信じている、愚かな存在。
せいぜい悔しがってもらおうではないか。
せいぜい、何も出来ない己の無力さに歯噛みしてもらおうではないか。

その怒りが判断を鈍らせ、彼らの勝利へとつながるのだ。
大型のキャリーケースに金貨と貴金属類を詰め込み、取り決めた量をそれぞれの運搬係りが自分の傍に置く。
金庫内には散乱した書類や、銅貨などの価値が低い硬貨が散乱していた。
早く金庫の扉が開かないか、その中にいる誰もが切に願っていた。

これ以上事態が悪化することなど、誰も考えていなかった。

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第一章【金の羊事件】 前篇 了
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34以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:54:59.989ID:XQwBnzfd0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第一章【金の羊事件】 後篇
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トラギコは店長を連れて、地上の店内に戻っていた。
人質たちは死と隣り合わせの状況にあるが、それについては少し同情の余地があった。
だが、大勢の犯罪者を逮捕することと今後の被害を食い止めるためと思えば安いものだ。
ランダ条約、と呼ばれる警察共通の犯罪者に与えられる権利を読み上げた後、コーヒーマシンで砂糖をたっぷりと入れたエスプレッソを用意して、トラギコは一息つくことにした。

銃撃戦にならなくてほっとする反面、この後の動きについて考えなければならなかった。
強硬策に出た責任は始末書か、それとも転勤か。
始末書であれば喜んで書くが、恐らく、大勢の一般人を巻き込んだという事で転勤を命じられるだろう。
大を生かすために小を切り捨てる。

トラギコはただそれを忠実に実行しただけに過ぎない。
本部にいた時は市民からの投書でトラギコの暴力性が指摘される一方で、彼の行為に感謝を示す投書が多く寄せられていた。
後者の投書は被害者家族や友人からによるもので、彼の行いは糾弾されるべきものではないと書かれていた。
どちらが正しいのか、それはトラギコの判断するところではない。

彼はあくまでも義務を果たし、罪に対する罰を与えているだけなのだ。
ただ、それでも断言できることがある。
彼の行為には、必ず犠牲者がつきものということだ。
彼の神経が何かを感知したのは、警報装置を押してから二十分後の事だった。

(,,゚Д゚)「……ん?」

何か明確な気配があったわけでも、その兆候があったわけでもない。
彼は何かを察知し、呼吸をするように自然にM8000を手に取っていた。
カービンライフルではなく、使い慣れた愛銃を選んだのはやはり彼にとってその銃がいかに頼りになるかを如実に示していた。
銃を握る手に力が込められたとき、ようやく本人がその理由に気付いた。

何かがこれから起こる。
それも、極めて危険性の高い何かが。
これまでに積み上げてきた経験は、彼の細胞に微細な空気の変化を察知させ、行動を起こさせるに至った。
相変わらず気の抜けた店長の口を押え、カウンターの奥へと連れて行く。

そして数分後、変化が訪れた。
店の前に車が停まる音がしたと思った次の瞬間、シャッターを破って覆面と防弾着、そして銃で完全武装した男達が五人現れたのである。
その姿はジュスティア警察の警官隊だった。
制服も装備も、確かにジュスティア警察のそれだが、トラギコの目にはそれが不自然に映っていた。

どれだけ早くても三十分かかるはずの部隊が、ここまで迅速に到着できるのだろうか。
時計を見れば、警報装置を作動させてから二十五分。
その五分が、トラギコの猜疑心を動かしていた。
それに、随伴するはずのパトカーもサイレンの音もなかった。

サイレンは犯人と人質に対するジュスティアの宣言にも等しい。
正義が到着したと知らしめる、いわば儀式的な物だ。
決して欠かすことの無いサイレンが聞こえないのは有り得ない。
同時に本部を出発し、最低でも警官隊車輌の前後に一台ずつ随伴しているはずのパトカーがいないまま、重装備の警官隊だけが先に到着することはどうしても有り得ないのだ。

息を殺し、物陰からその様子を観察する。
相手の装備はシルバーメタリックのベレッタM92F、そしてドットサイトとフォアグリップを取り付けたコルトM4カービンライフル。
装備は間違いなく対強盗専門の警官隊のそれだ。
だが、動きに繊細さが無い。

(::゚,J,゚::) 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)

35以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 21:57:34.300ID:XQwBnzfd0
警察が誇り、最高を自負する動きの繊細さがまるでなく、五人の動きは殆ど素人のそれだ。
死角はカバーせず、後続の二人は銃を構えることもしていない。
彼らはまっすぐに金庫に通じる通路へと歩み、トイレに行くこともしなかった。
人質がいる可能性はまるで考えず、そこにだけ意識が向いていた。

人命優先のジュスティア警察には考えられない行動だった。
トラギコの脳裏に、一つの可能性が浮上する。
もしも内通者が情報を意図的に細分化し、本命のために強盗達に露払いをさせ、手間を省くことが目的だとしたら、どうだろうか。
時間の経過と共に自然と現れる存在について、誰も疑念を抱かないのではないだろうか。

強盗発生後に絶対正義を掲げる人間達が現れれば、疑う人間はいない。
警報装置に細工をし、それがジュスティアだけではなく別の存在に対する通知にもなっていれば、繋がる人間全員が、強盗が金庫を破るために店に侵入したのだと伝える役割を果たすことになる。
そして、通報を受けた警察が店に入り、証拠品を押収する名目で金品を預かったとしても、不思議に思う人間はいない。
偶然その場に居合わせた警察官以外は。

事前に情報が流されていたのと同じように、ここの警報システムは細工された後だったのだ。
つまりこれは、四組目の強盗達が堂々と現れた瞬間だと認識するのが自然な展開だった。
トラギコは彼らが地下に向かうのを確認してから、店長を連れて地下に向かうことにした。
彼らが第四組目の強盗だとしたら、その動きは極めて暴力的になるはずだ。

わざわざ警官隊を装ったのも、明確な意図がある。
金庫の中にいれば一先ず人質の命は保証されているような物だが、それを脅かす存在であり、尚且つ人命について特に考えていない連中が登場するとなればこれは受け入れがたい展開だった。
店長を前に階段を降り、その途中でトラギコは彼の背中を叩いた。

(,,゚Д゚)「警官隊に助けを求めるラギ、さぁ」

店長は階段を駆け下り、警官隊たちに向かって仔犬のように駆け寄る。

彡(^)(^)「助けに来てくれたんやな! サンガツや!」

店長の登場に、一瞬だけ警官達が驚いた様子を浮かべる。
だがすぐにそれを隠し、如何にも警官らしい自信を持った態度に切り替わった。

(::゚,J,゚::)「はい、我々が来たからには安心してください。
     強盗達はどこに?」

彡(^)(^)「金庫の中に人質と一緒に入っとるで」

あまりにも緊張感のない店長の口調と態度に、警官隊の声色が明らかに変わる。
注目が全て店長に向いた隙を逃さず、トラギコは素早く扉の影に隠れることに成功した。
これで、蝶番の隙間から中の様子がうかがえる。

(::゚,J,゚::)「薬を打たれたんですか?」

彡(^)(^)「そうなんや。
     でも、意識はあるで」

あっけらかんと言う店長の肩を、警官隊の服装をした男が優しく叩く。

(::゚,J,゚::)「それは良かった。
     金庫を開けられますか?」

彡(^)(^)「えぇ、ですが強盗達が出てこないんか?
     中には人質も一緒なんや」

(::゚,J,゚::)「その時のための我々ですよ」

36以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:01:27.542ID:iY1cVK2Ta
長い三行で

37以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:02:56.492ID:XQwBnzfd0
もう間もなく、全てのピースが邂逅することになる。
そうなった時、この四組目の強盗達がどのような行動を起こし、それ以外の強盗達がどう動くのか、ぎりぎりまで見届けた上で決断する必要がある。
トラギコは彼らの動きについて、ある程度の予測を立てることができた。
金庫内の強盗達は警官隊の到着に合わせ、人質を楯として逃亡を要求するだろう。

ジュスティア警察を相手に人質を掲げることほど愚かしいことはないが、考えの浅い強盗であれば間違いなくそうする。
次に起こるのは、警官隊を装っている強盗達が投降を促し、名目はどうあれ、強盗を全員始末するつもりだろう。
逮捕するところまで演じる事が出来るのであれば、その演技力と準備の徹底ぶりに拍手の一つでも送るところだが、面倒や手間を考えてそうはならないはずだ。
体よく強盗達を殺した後、彼らは堂々と金品を持ち出し、この場から引き上げる。

そして、遅れて到着した本物の警察を見て、ようやく強盗の思惑に気付くことになる。
そういうシナリオなのだろう。
ならば、介入するべきタイミングは明確だ。
金を持ち出さられる前、強盗達が銃を向け合っている中で介入するしかない。

そこを逃せば人質は生きるよりも死ぬ確率の方が高くなる。
四組目の強盗よりも金庫内の強盗の数の方が勝っている点と、人質救出の訓練を受けていない事が決め手だ。
カービンライフルの弾倉を外して、中身を確認する。
弾は込められている。

薬室にも装填されていた。
後は、銃爪を引くだけでいい。
M8000も同様に確認を済ませ、短く息を吐く。
店長は不正操作によってロックされた金庫の扉を開くための作業を行うため、コンソールと格闘している。

そうなると、中の強盗達はもう間もなく扉が開かれるという事を察知できるだろう。
今頃は人質を楯にするために、それぞれ工夫をしているに違いない。
未だ開かない扉の前で動きがあった。
四組目の強盗達がガスマスクを装着し、機械仕掛けのゴーグルを被り始めた。

胸のポケットから取り出した筒状の物体を見て、次に起こる行動と彼らの狙いがよく分かった。
同時に、トラギコは一つの疑問を抱いた。
彼らはあの装備をどうやって揃えたのだろうか、と。
あれは全て、ジュスティア警察の部隊が実際に採用している物で、市場に出回っている価格は一般人がそう気軽に手を出せるものではない。

銀行強盗による稼ぎを考えてもリスクが高い。
彼の予想通り、彼らは開いた金庫の僅かな隙間にガスグレネードを放り込み、扉を閉じた。
非殺傷性のガス弾は少なくともまともに浴びれば一時間は涙と咳、鼻水と目の猛烈な痒みに苦しめられるはずだ。
それを警告も一切せずに人質もろとも浴びせかけるとは、ジュスティア警察のすることではない。

だが使うタイミングは間違えていない。
ガスによる鎮圧行動を行って、十数分が経過した。
再び扉が開かれ、今度は別の筒を投げ入れ、そして閉じられた。
扉の向こうから耳を聾する強烈な大音が響き、今度はスタングレネードを使用したのだと理解した。

閃光と爆音によって抵抗する力を奪い取る道具までも使ったことで、トラギコはある確信を得た。
彼らの中に、元ジュスティア警察の人間か、現役のジュスティア警察の人間がいる可能性が極めて高い。
介入するタイミングが失われてしまったが、焦る必要はない。
もしも今焦れば、金庫内で発砲があるかもしれない。

今しばらくタイミングを窺わなければならないことに、そろそろ彼の堪忍袋も我慢の限界が近付いている。
三度扉が開かれ、人質を用いて抵抗する間もなく強盗達は制圧され、金庫から引きずり出された。
捕えられた強盗達は皆手足を拘束され、うつ伏せにして並べられる。
背中を丸めてせき込み、数人は呼吸困難の症状が出ていた。

38以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:04:48.964ID:XQwBnzfd0
次に人質が連れ出され、犯人とは離れた場所に避難させられる。

(::゚,J,゚::)「金庫内制圧完了です。
     ただ、中身が全て荒らされているため、一度全ての金品の確認を行わなければ……」

(::゚,J,゚::)「なら、本部に持ち帰ってからだ。
     ひょっとしたら盗品があるかもしれないからな。
     店長、いいですね?」

彡(゚)(゚)「……お任せしますわ」

圧倒的な武力を見せつけられた店長に、先ほどトラギコに買収を持ちかける余裕はなかった。
反抗する気力を失った店長に出来るのは、頷くだけだった。

(::゚,J,゚::)「っ! こいつら!」

そして、如何にもわざとらしく一人の男が犯人たちに向けて発砲した。
全員が頭部を撃ち抜かれ、即死した。
射殺までの間隔が短すぎる。
どう見ても、殺すことを前提に行動していた人間のそれである。

(::゚,J,゚::)「何をしている!?」

(::゚,J,゚::)「こいつら、人質を楯にしようとしていたんです!
     そんな外道、殺さないと駄目です!しかも……女性に対して!」

若い人間が感情に任せて殺した、というシナリオはあまりにも陳腐だが、特に人質にされていた女性の心理としては共感するところがあるだろう。
生きて逮捕できる犯人の数が減ったが、まだ大丈夫だ。
銀行内に潜んでいる情報提供者の容疑者は全員生きている。
それならば問題はない。

そろそろ上に戻り、待ち伏せをした方がいいだろうかと膝を上げた、その時である。

(::゚,J,゚::)「隊長、こちらの女性を救急に連れて行かないと」

人質たちに声をかけていた一人が、蹲ったまま動かない女性を指さした。
この位置から女性の顔は見えないが、下着姿の女性は弱々しく震えているようにも見えた。
逃走用に一人人質にするつもりだろうか。
だが今は動かない方がいい。

人質の生殺与奪件は未だ強盗達にある。
一度動きを止めたトラギコはすぐに動き、再び店内へと隠れることにした。
静まりかえった店内で息を殺して強盗達が来るのを待つ。
大股で階段を上る跫音が聞こえてくる。

人質の位置を把握することは、まだ無理だ。
警官であることをアピールして人質だけを回収し、彼らを見逃すか。
否、それは出来ない。
彼は極めてわがままであり、欲張りだ。

強盗達に情報を流した人間も、強盗達も一網打尽にしなければ気が済まない。
馬鹿げた覆面を剥ぎ取り、静かに相手の動きを待つ。

(::゚,J,゚::)「……うまくいったか?」

(::゚,J,゚::)「しっ! 黙れ、まだ店を出てないぞ。
     街から離れてからだ」

39以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:09:09.287ID:XQwBnzfd0
声を潜めた男達が、トラギコが身を隠しているカウンターの前を通り過ぎる。
跫音と気配は六人分。
全員が出てきたことになる。
このままでは人質と共に逃げられてしまう。

細かな画策は後で考え、今はとにかく動くしかない。
カービンライフルの安全装置を外して、トラギコは六人目が通り過ぎたのを確認してから身を乗り出した。

(,,゚Д゚)「警察だ、動くな! 銃を捨てろ!」

そして彼はこの事件最後のからくりを目撃することとなる。
人質であるはずの女は最後尾を歩いていた。
手枷も、銃も突きつけられることもなく。
自由な姿で歩いていたのだ。

从;´_ゝ从「げっ」

つまり、この女こそが情報を強盗達に流していたのだ。
仕掛けは単純でありながら、狡猾なまでに考えられていた。
複数の強盗に偽の情報を売り、まずは情報料を得る。
次に本命の強盗達と会い、自分の顔を認識させる。

彼女は金庫が容易に開けられない事を知っており、店長が何かしらの防衛手段を用意していることを分かっていた。
そこで考え出したのが、誰にも疑われることなく堂々と金を持ち出せる存在だった。
本命以外の強盗が金庫破りに成功した場合はそれを横取りすればいいし、仮に金庫が開けられなかったとしても、警官隊に偽装した人間が念のために金庫内を確認させてほしいと言えばいい。
この騒ぎに乗じて全て贋金に変えられていないとも限らず、そう言った事例を挙げればすぐに納得するはずだ。

どちらにしても金庫の金を持った警官隊は、次に、情報提供者を連れて銀行を後にする。
連れ出す理由はなんとでもなる。
店長たちが金を目の前で持ち出されたと気付いた時には、全てが終わった後だ。

(::゚,J,゚::)「驚いたな、警官がここにいるとは。
     だが落ち着け、俺達はジュスティア警察の警官隊だ」

そう言って、先頭の男が身分証を掲げる。
トラギコの持つそれとは若干異なり、本物の警官隊が使用している身分証と同じものだった。
金色の楯と剣をあしらったエンブレムの上に銀色の数字が輝いている。

(,,゚Д゚)「いいから銃を捨てろ、今すぐゆっくりラギ」

銃を構えているトラギコの方が有利な位置にある。
男達は互いに顔を見合わせてから、銃を降ろした。
だが手放すことはしなかった。
銃腔が下を向いただけでも僥倖だ。

相手に演者根性があったおかげで助かった。

(,,゚Д゚)「名前は?」

(::゚,J,゚::)「それは規則で言えないことになっている。
     知っているだろう?」

確かに、警官隊が覆面をしているのは、己の素性を知られないためだ。
顔を隠せば人は大抵の悪行に対して抵抗感を抱かなくなる。
自分が誰なのか相手に分からなければ、何をしてもいいのだという心理的な物もあるが、
それだけで人間の暴力的な残忍性を引き出せるだけでなく、自分とその周囲を同時に復讐から守れるのだから、隊員たちは喜んでそうするだろう。

それを知っているという事は、やはり、先頭の男はジュスティア警察に関係していたと考えるべきだろう。
ここで納得して進ませてはならない。
掲げられた身分証をよく見ながら、トラギコは一つ質問をすることにした。

40以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:18:40.194ID:XQwBnzfd0
(,,゚Д゚)「現役の人間なら、俺の顔と名前も知ってるだろう?」

(::゚,J,゚::)「さぁ、知らないな。
     現場が忙しくて、いちいち名前は覚えてられない。
     だが、あんたの顔は見たかもしれないな」

(,,゚Д゚)「へぇ……」

生かすべき人間は決めた。
殺すべき人間も決めた。
後は、やるだけだ。
構えていたカービンライフルの銃爪が静かに、そしてゆっくりと引き絞られた。

銃弾は最後尾にいた女の肩を掠め、肉の一部を削り取った。

从;´_ゝ从「ああっ!?」

悲鳴を上げ、うずくまる女。
銃声に反応し、動き出す強盗達。
頭上にライフルを構えながら屈むトラギコ。
そして、乱れ響く銃声。

静寂は失われ、薬莢が床を叩く涼しげな音は銃声の爆音によって掻き消え、怒号が飛び交う。
楯にしていたデスクが瞬く間に砕け散り、トラギコの頭上に木片が降り注ぐ。
その中で弾倉を交換し、逃げようとしている強盗に対して牽制射撃を加え続ける。
数の不利をこの狭い空間で補うのは難しいと判断し、早急に外に逃げ出してもらいたいところだった。

車で逃げてくれれば、それを転倒させることで打撃を与えることが出来る。

(::゚,J,゚::)「引き上げるぞ!急げ!」

キャスターが悲鳴のように軋む音を上げ、人の駆ける慌ただしい音が聞こえ、そして嵐のような援護射撃が襲い掛かる。
流石にトラギコは射撃を中断してその場に伏せ、銃弾から身を守るしかなかった。
撤退に伴う援護射撃から一分も経たずに全員が店から出て行き、最後に白煙を吐き出すグレネードが投げ込まれた。

(,,゚Д゚)「くそっ……!」

服の袖で口を覆い、グレネードを金庫に続く階段に放った。
外から車が急発進する音が聞こえると、トラギコはライフルを捨てて店を出た。
砂煙が舞う中、白いバンは町の出口に向けて猛スピードで走っているのが見えた。
町から出て別の町に逃げ込めば、指名手配されない限り法律は適用されない。

指名手配をするためには追加料金が発生する為、この町の町長が決断しない限り三日で期限が切れる。
雲隠れでもされたら、まず間違いなく逃げ得だ。
強盗達が乗る車が逃げる方角を見定めてから、トラギコは停めてあった別のバンに乗り込み、後を追った。
強盗達が揃って車を用意してくれたおかげで、こうして後を追うための手段に困らなかったのは僥倖だ。

更に僥倖だったのは、今乗っているバンのエンジンに手が加えられて速度がかなり出る事だった。
車での逃走をより確実なものにするための改造だったのだろう。
逃げるための改造が、追うために使われるのは少し皮肉が効いている。
砂塵を追い、開けた荒野に差し掛かる。

舗装されているのかいないのか分からない道の先に、トラギコの追うバンがいた。
アクセルを強く踏み込み、更に加速させる。
左手でハンドルを操作しながら、右手でベレッタの安全装置を外す。
生け捕りに出来ない人間が多少出てもいいが、せめて二人は捕えたい。

41以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:35:16.491ID:XQwBnzfd0
銀行にいた内通者と実行犯の一人。
彼等さえ捕えてしまえば、全貌が明らかになるだろう。
徐々に距離が縮まり、目測で三百メートルほどになった時に動きがあった。
前を走るバンのスライドドアが開き、そこからライフルを持った手が出てきた。

だが、それは遅すぎる判断だった。
トラギコはすでに撃鉄を起こしたベレッタを構えており、狙いはつけられていたのだ。
ライフルが姿を見せるのと同時に連続して放ったのは三発。
そして、ライフルに命中したのは一発。

続けてトラギコは車の右タイヤを狙って五発撃った。
タイヤが爆ぜ、車がバランスを崩す。
慌ててハンドルを切るが、金の重みと相まって車は遂に横転した。
倒れた車目掛け、トラギコはバンを突っ込ませた。

衝撃でフロントガラスが割れ、ボンネットが開いて視界が失われる。
それを意に介することなく、トラギコは運転席側の窓から銃を出し、相手の車に向けて適当に数発撃った。
弾倉を交換し、両側の扉を開いてから後部座席に移動する。
バックドアを開いてそこから降り、銃を構えて慎重に近づく。

聞こえてくるのは唸り声に似た風の音と人のうめき声。
そして、遠くから響くサイレンの音。
本物の警察がようやく合流できた。

(,,゚Д゚)「さぁ、武器を捨てて全員出てくるんだ」

そう言いつつ、トラギコは横転したバンの底部を撃つ。
シャフトが砕け、ケーブルが切れて電気系統がショートする。
右手で牽制するようにして銃弾を放ちながら、左手は最後の弾倉を上着から取り出している。
弾倉を器用に小指の間に挟み、両手で銃を構えなおす。

(,,゚Д゚)「次はバッテリーに当てる。
    月まで吹き飛びたいか?」

水を燃料として稼働する車に搭載されているバッテリーは、よほどの事が無い限り破損はしない。
僅かな資源から大量の力を引き出すためのバッテリーは高性能爆薬にも等しく、運転中に爆発するような事があっては断じてならないため、
各メーカーはそこに最高の技術を注いで堅牢な物に仕上げるように努力をしている。
銃弾を撃ち込まれることまでは想定していないのは、決して彼らの職務怠慢ではなく、そもそも想定に含めない緊急事態であるからだ。

トラギコがここでバッテリーを撃てば、脅しではなく、本当に強盗達は全員爆散する。
問題は、相手が抵抗の意志を見せるか否かだ。
転倒させた際の衝撃はあっても、相手にはライフルがある。
拳銃でいつまで持ちこたえられるだろうか。

ここで制圧しておかなければ、次の動きに支障がでる。
ゆっくりと、跫音を殺して前部に回り込む。
後部座席に隠れていたとしても、今はバンが潰している。
ならば逃げ出すための道は前方にしかない。

銃声と横転した車を見つけたのか、サイレンが近付いてくる。

(::゚,J,゚::)「この……糞……野郎が……!」

助手席の男が毒づく。
主犯の男の声ではなかった。
僅かに中が見えるぐらいの位置に立ち、フロントガラスの向こうを見ようとするが、蜘蛛の巣状の細かいひびが入ったその向こう側を見ることは出来なかった。
銃腔をフロントガラスに向け、銃爪を引く。

割れたガラスの向こうから複数の悲鳴が聞こえてきた。

42以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:40:35.047ID:2hu0gD0+a
しえ

43以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:41:10.883ID:XQwBnzfd0
(,,゚Д゚)「両手を挙げてさっさと出てこい。
    次は当てるぞ」

ゆっくりと、まずは運転席から一人這い出てきた。
ガラスの破片にまみれた男は両手を挙げながら、ようやくといった様子で車外に姿を見せた。
すぐに背中で両手を縛り上げる。
続けて助手席から一人、奥から三人が出てきた。

全員抵抗する様子もなく、難なく無力化に成功した。
トラギコが一般的な警官の様に威嚇射撃などをせず、殺す勢いで撃ってくる人間だと理解したのだろう。
全員跪かせ、フロントガラスの前に背中を向けて並ばせる。
これで、残りは一人。

内通者の女だけだ。
強盗達から距離を開け、銃腔を油断なく全員の胸の位置で行き来させる。

(,,゚Д゚)「女、早く出てこい。
    俺は気が短いんだ」

返答はない。
中で何か抵抗の準備でもしているのだろうか。
だが無策に撃ってくれば、強盗達が楯となってトラギコを守ることになる。
無駄な殺人は罪を重くするだけだ。

(,,゚Д゚)「おい、中の女の名前は?」

(::゚,J,゚::)「知らねぇよ」

答えたのは助手席にいた男だった。
悪態を吐いたのを見るに、もう警官として偽ることが不可能であると諦めているようだ。
潔くて助かる。

(,,゚Д゚)「ってことは、偽名しか知らないってことラギか?」

(::゚,J,゚::)「ジェーン・ドゥ(名無しの女)なんて偽名しか考えられねぇだろ」

(,,゚Д゚)「……なるほどな」

流石に本名を名乗る程馬鹿ではなかったようだ。
膠着状態が続き、ついに、サイレンを鳴らすパトカーが数台トラギコの背後に停車した。
顔はそちらに向けず、銃腔と共にまっすぐ前を睨みつけている。
複数の跫音が近付き、背後で止まる。

撃鉄が起こされる金属音が小さく鳴った。

「全員動くな!」

遅れて到着した警察官の怒鳴り声に、だがしかし、トラギコはまるで怯む様子もなく言い返した。

(,,゚Д゚)「ミニマル担当のトラギコだ。
    銃を向けるんなら、車の中にしろ」

「トラギコ……? あのトラギコか」

これが正しいジュスティア警察人の反応である。
彼の悪評はどの部署にも伝わり、本部にいた時は廊下ですれ違うたびに陰口を叩かれていたものだ。
ある事ない事、誇張された逸話などが多く噂され、気が付けば彼は実態以上に凶悪かつ善人に仕立て上げられていた。

44以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:41:36.941ID:0u7bIXVJa
支援

45以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:42:19.802ID:DbwhQ5jz0
なんでぇブーン系じゃねえか支援

46以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:43:30.275ID:XQwBnzfd0
「強盗事件の内通者、という意味か?」

(,,゚Д゚)「そうだ。
    それと、銀行に一組向かわせるラギ。
    人質もそうだが、店長に逃げられるラギ」

細かな話をしている余裕はないと判断したのか、パトカーが一台現場から走り去った。
恐らくは町に向かっているパトカーと合流し、店長に事情を聴く運びとなるだろう。

(,,゚Д゚)「さぁ、もう逃げ場はないぞ、女」

トラギコはゆっくりと後退り、到着した警察官と並んだ。
正に、その時。
車内から物音が聞こえたかと思うと、巨大な銃声が一つ鳴り響いた。

砕けていたフロントガラスの穴の向こうから発砲された銃弾は、強盗の肩の肉を吹き飛ばした。
その威力と銃声の種類は間違いなくショットガンのそれ。
皮一枚で肩がつながった状態の男は絶叫し、その場でのたうった。
他の男達は一目散にパトカーの方に走り出し、逮捕と保護を求めた。

警官たちもバンから離れ、パトカーの裏に回った。
ただ一人。
トラギコだけが、その場に立っていた。
怒りの形相を浮かべ、彼は吠えた。

(;,,゚Д゚)「この糞女が……!」

まず、トラギコは撃たれた男を掴んで立ち上がらせた。
それは別に、彼を助けようと思っての行動ではなかった。
彼女の選んだ武器がショットガンであれば、貫通力に乏しいはずだ。
防弾着を着ているこの男を楯にすれば銃弾が貫通してくることはない。

すかさず銃声と衝撃が訪れるが、男の防弾着がそれを止めた。

(,,゚Д゚)「何ぼさっと見てるラギ! スタンを寄越せ!」

我に返った警官が言われるままに、トラギコにスタングレネードを投げた。
受け取り、ピンを抜き、数秒数えてからバンの中に放り入れた。
そして、閃光、爆音。
光は楯にしている男を使って防げたが、聴覚は限界を突破した音によって失われてしまった。

耳鳴りが酷い。
それでも、五感の内一つが使えないだけだ。
素人に毛が生えた程度の女一人を逮捕するのには問題はない。
スタングレネードの直撃を浴びた人間はしばらくの間動きが完全に止まるか、とりあえず意味もなく暴れるしかない。

銃声は聞こえないが、楯になっている男の体を通じて衝撃を感じていることから、ショットガンをやみくもに撃っているようだ。
目と耳を奪えているのであれば、攻める方向は正面ではなく上から。
つまり、横転した車の後部にあるスライドドアからの侵入と制圧だ。

(,,゚Д゚)「――――!」

トラギコは自らの言葉さえ聞こえない状況だったが、警官達に犯人を確保するように大声で怒鳴った。
安全な方向に移動し、虫の息となっている男をそこに投げ捨てる。
素早く車に登り、スライドドアを開いて銃を構えた。
ランダ条約を読み上げることもなく、ただ、犯人を無力化するために彼の体は機械のような正確さで動いていた。

47以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:46:51.669ID:XQwBnzfd0
ショットガンを構えようとしていた女の頭上に光が差し込んだ次の瞬間には、ワークブーツを履いたトラギコの足がその顔に襲い掛かっていた。
女の前歯が折れ、手からショットガンが落ちる。
仰向けに倒れた女の顔に、トラギコの掌底が容赦なく放たれた。
そして、女は抵抗らしい抵抗も出来ないまま、警官達に車外に連れ出された。

トラギコは耳の調子が少しずつ回復してきたのを確認するように、耳に指を出し入れしつつ、女がパトカーに乗せられるのを見ていた。
楯にした男も生きているらしく、手当てを受けていた。
この銀行強盗事件もようやく終わりだと、彼はゆっくりと溜息を吐いた。

「――ぶ。
トラギコ警部、聞こえますか?」

その声が後ろからかけられていることに気づき、振り向く。
そこには最初にトラギコに銃を向けた警官が立っていた。

(,,゚Д゚)「万全ってわけじゃないけどな。
    で、何だ?」

「今回の事件を報告していただきたいのですが、よろしいですか」

(,,゚Д゚)「報告書か?」

あまり好きではないが、報告書は作らなければならない。
内部的な処理の問題と、対外的な問題。
つまり、契約者に対する報告に使うために必要になるのだ。

「いえ、直接報告を聞きたいと……」

いささか急すぎることに、トラギコは疑問を覚えた。
本部にこの事件の事が通達されるまでには、もう少し時間があって然るべきなのだが、速すぎる。
先ほど来たばかりの警官達が本部に連絡をしたとしても、もう三十分はかかるはずだ。
彼らが到着する前に連絡がされたとしか思えない。

では、誰がいつ連絡をしたのか。
それが出来たのは、恐らく、店長だ。
店で放心状態になっていると思っていたが、腐った根は薬の力でも誤魔化せなかったのだろうか。
だが本部に連絡をしてどうしてトラギコが呼び出されなければならないのだろうか。

(,,゚Д゚)「直接? 書類じゃなくてか」

「はい。
確実に伝え、確実に報告に来るようにとセントジョーンズ局長からの連絡です」

(,,゚Д゚)「おやっさんか……」

ラブラドール・セントジョーンズはジュスティア警察本署に務めるベテランの男だ。
署内で唯一局長の身分を持ち、その仕事は正確無比で有名だ。
トラギコより二回り年上の彼が行う仕事は、刑事課の面々が担当する事件の管理とその処理、そして支援が主となる。
事件の解決には経費が掛かるだけでなく、多くの関係者の協力を得なければならない時がある。

現場で働く人間達にとってそれらの処理は極めて面倒なものであり、出来る事であれば誰かに肩代わりしてもらいたいものだ。
そこで局長は若かりし頃に積み上げてきた人脈やノウハウを生かし、現場のサポート全般を行うのだ。
無論、彼が現場に出ることもある。
そのような事態が起こった事件は、例外なく難事件と呼ばれる類の物でそうなった場合は刑事課の中でも腕が確かな面々が呼び出され、チームを組んで事件の早期解決にあたることになる。

(,,゚Д゚)「なら、本部まで送ってもらえるか?」

「それは勿論」

48以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:51:57.838ID:2hu0gD0+a

49以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:52:12.370ID:XQwBnzfd0
にこりともせずに警官はそう返事をし、先導する。
トラギコは大げさに溜息を吐いて見せ、パトカーへと一歩を踏み出した。
そして、遠方から響き大地を震わせる爆発音にその足を止めた。
爆発音は背後からだった。

「な?!」

爆発音のした方向に黒煙が上がっている。
煙は遠方に小さく見えるミニマルの町から上がっていた。
ただの爆発ではないことは、黒々とした煙の勢いが如実に物語っている。

(,,゚Д゚)「銀行に向かうぞ!」

トラギコの怒鳴り声で、警官達は一斉に動き出した。
犯人たちを乗せたパトカーも、サイレンを鳴らして町へと向かう。
運転手は何度も無線を使い、現場にいる同僚に連絡を試みるが、向こうから聞こえてくるのは耳障りな空電の音だけだ。
町に着くと、すぐに爆発の元が銀行であることが分かった。

地上にあった建物は消え失せ、地下から濛々とオレンジ色の炎をちらつかせる黒煙が立ち上り、警官達はすでに消火活動を諦めて近隣住民の避難を行っていた。

(,,゚Д゚)「ミニマル担当のトラギコだ。
    何があったのか説明できる奴はいるか?」

住民が現場に近づかないように声をかけていた警官の一人が駆け寄ってきた。
顔の煤が彼の行動を物語っている。

「地下から人質を外に移動させている時に、地下で爆発が起きて……気が付けばこうなっていました」

(,,゚Д゚)「店長はどこだ」

「それが……自分は最後に行くと言って……」

彼らを責める気はまるで起きなかった。
彼らは事件の黒幕が店長であることを知らず、仕事をこなしただけなのだ。
彼を拘束していたが、それが誰によるものか分からなければ、状況判断として強盗達にやられたのだと考えても仕方がない。
というよりも、それが自然な解釈の仕方である。

そして店長が最後に残ると言った言葉も、正義感溢れる人間の発言だと考えれば何一つおかしくはないのだ。
何もかもがもう一歩早ければ店長を犯人として逮捕できたが、こればかりはどうしようもない。
仮定の話をしたところで進展はないと気持ちを切り替え、トラギコは状況の確認を行うことにした。

(,,゚Д゚)「奴は金庫室にいたのか?」

「はい、そのはずです」

となると、金庫室に仕掛けがあり、それを作動させてこの騒ぎを起こしたと考えるのが自然だ。
だが不自然なのは、何故爆破を選んだのか、である。
今回の件は保険金詐欺として処理され、刑罰はあまり重くはない。
この町で二度と商売が出来なくなるとしても、それが死を意味することにはならない。

ならばなぜ、という疑問が彼の頭の中で渦巻いた。
薬によって精神状態は冷静だったはず。
冷静な人間が自決を選ぶとは思えない。
選ぶとしたら、事件の真相を知らない警官が彼を一人にする、千載一遇のチャンスを利用する事。

つまり、逃亡するための時間稼ぎが狙いに違いない。

(,,゚Д゚)「防火服はあるか?」

「消防団が使用しているものであればありますが……まさか、中に行くつもりですか?!」

50以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:55:33.980ID:XQwBnzfd0
コンクリート製の建物は崩れ落ち、黒煙と炎が瓦礫の間から勢いよく噴出しており、その先に進もうと考える事は動物的な本能が拒絶する。
事実、トラギコも出来る事であれば瓦礫の下にある金庫室に向かわずに店長を探し出したいと思っているが、今は時間的な猶予がない事もあり、選択肢は限られていた。

(,,゚Д゚)「手の込んだ保険金詐欺を考えるような奴が、自棄になって自爆なんてするとは思えねぇラギ」

警官は目を丸くして驚きを顔に出した。

「この爆発は囮だと?」

(,,゚Д゚)「だろうな。
   死ぬつもりなら別にここまで壊す必要はねぇ。
   意図的に入り口を塞いだと考えるべきラギ」

そしてトラギコは銀色の防火服とヘルメット、マスクと酸素ボンベを受け取り、炎の上がる銀行へと向かった。
警官達が人質と共にここに出てくることが出来たという事は、少なくとも地下に通じる道は完全に封鎖されていない可能性があるという事だった。
瓦礫を踏み越え、炎の向こう側に地下への階段を見つけた。
大きなコンクリート片が階段を塞いでおり、撤去しなければ地下に下りることはできない。

何よりも炎が邪魔だった。

(,,゚Д゚)「誰か手を貸してくれラギ!」

叫び声に応じて現れたのは、トラギコと同じ格好をした男だった。
マスク越しに見える顔はまだ若く、二十代前半の青年といったところだ。
そして僅かにジュスティア警察の制服が見えた。
だがこの際、年齢や所属よりも力があるかが問題だった。

「自分でよければ」

(,,゚Д゚)「そこの瓦礫をどかして地下に行きたいラギ。
    手を貸してくれるか?」

指さした先を見て、青年はトラギコの顔をまじまじと見た。
まるで、正気を疑っているようだ。

「ですが、地下は爆発が起こった場所ですよ。
誰か生存者がいるとは思えません……」

(,,゚Д゚)「これっぽっちの爆発で地下金庫が吹き飛ぶとは思えねぇ。
    なら、店長が生きている可能性は十分にあるってことラギ」

もしも地下金庫ごと吹き飛ばすのならば、地図が変わるぐらいの規模の爆発が起きて然るべきだが、周囲の建物への被害は皆無に等しい。
建物がほぼ崩落するぐらいの大規模な爆発が地下で起きたのならば、今頃建物は地下に沈んでいる事だろう。
そうではない現実が物語るのは、爆発のほとんどが地上で起こった物であるという事だ。

(,,゚Д゚)「分かったなら手を貸せ」

「は、はい!」

どうにも返事に覇気が感じられない。
精神論者ではないが、こういう状況下では精神力がなければ意識を保つことは難しい。
特に、経験が浅い人間は知識などが欠如している分、精神面で補わなければならないことが往々にしてある。
今がまさにその時だ。

声を上げてコンクリート片を二人で持ち上げ、一気に移動させる。
瓦礫の下から現れた階段の向こうから風音が不気味に響き、思わず息を呑んだ。
それは恐怖によるものではなく、興奮によるものだった。
これから先、きっと彼を楽しませてくれる出来事が待っているはずだ。

51以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:57:10.478ID:XQwBnzfd0
平凡な事件はない何かが待っていると考えるだけで、彼の胸は高鳴った。
躊躇なく階段を下り、その先へと向かった彼を待っていたのは、やはり、想像していた通りの光景だった。

(,,゚Д゚)「やっぱりそうか……」

地下に通じる階段はほとんど損傷がなく、金庫室は無傷そのものだった。
そして僅かに開いた金庫室の扉の向こうから、風が吹いてきている。
つまり、その向こうが地上に通じている可能性があることを示唆している。
彼の仮説は今や最も有力な説となり、彼自身、自分の考えが間違っているとは思っていなかった。

店長は大金庫内に脱出路を用意していたのだ。
目的は災害時の避難などが主だったかもしれないが、今は主犯が逃亡するための安全な逃げ道として利用したに相違ない。
重々しい金庫の前で立ち止まり、トラギコはわずらわしげにマスクなどを脱ぎ捨てた。
M8000を取り出し、弾倉を交換してから僅かに開いた金庫の扉の向こうを見る。

金庫の奥に小さな扉があり、そこから風が吹き込んでいるようだった。

(,,゚Д゚)「来るか?」

後ろで装備を脱ぎ捨てていた青年に、トラギコはそう声をかけた。

(;><)「はい、ついていきます」

迷いのない返事が返ってきたのと同時に、彼の着ている真新しい制服に名札が付いていないことに気が付いた。

(,,゚Д゚)「いい返事だ。名前は?」

( ><)「ビロード・フラナガンです」

年齢的に考えて、ジュスティアで警官として採用されたばかりなのだろう。
あまり無茶はさせられないが、ある程度の無茶を覚えてもらわないと後で困る。
甘やかされた警官は甘い価値観を持って仕事に務め、他人に迷惑をかけるのがオチだからだ。

(,,゚Д゚)「俺はトラギコだ。
    ビロード、銃を出しておけよ」

ビロードは腰のホルスターからコルト1911を取り出し、遊底を引いた。
勇ましいことだが、肝心な時に銃爪が引けるかどうかは別問題だ。
トラギコを先頭に二人は金庫へと入り、その奥の扉の向こうへと向かった。
扉の向こうは等間隔に置かれた緑色の非常灯が薄暗い通路を照らし、その先は闇に包まれている。

待ち伏せされていれば不利なのは言うまでもない。
トラギコは銃をまっすぐに構えたまま、走り出した。
その後ろからビロードが走り、二人の跫音が狭い通路内に残響する。
地下に作られた通路と言う事もあって、外と違ってひんやりとした空気が流れている。

ただ、僅かに外から来る熱気を帯びた風が彼らの頬を撫でた。
奥で彼らを待っていたのは、地上に向けてまっすぐに伸びる一本の梯子だった。
これを上った先に地上があるのは間違いないが、その先に銃を構えた人間や、或いは爆発物が仕掛けられている可能性があった。
もしも追跡者を予期していれば、何らかの罠を仕掛けていると考えるのが自然だ。

それでも、頭上に輝く青空は間違いなくそこに存在している。
その先に、彼を楽しませる存在がいるのだ。

(,,゚Д゚)「俺が先に行くが、お前はここで待ってろ」

( ><)「ど、どうしてですか?」

(,,゚Д゚)「罠があって俺が死んでも、お前が行けるだろ?
    共倒れなんてのは、俺の趣味じゃねぇラギ」

52以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:57:33.132ID:4mPGyURz0
支援

53以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 22:57:51.144ID:XQwBnzfd0
銃を構えたまま梯子を上り、地上へと身を乗り出した。
砂埃が風に舞い、彼の顔を容赦なく汚す。
目を細めつつ周囲に銃腔を向けるが、人影一つ見えない。
見えるのは岩と乾いた地面、そして干からびた草だけだ。

ゆっくりと這い出して、周囲の安全を確認する。

(,,゚Д゚)「上がってきていいぞ!」

それだけ言って、トラギコは先に地面をよく観察した。
人が通った形跡を探しているのだ。
店長がどこに逃げたのか、それが分からなければこの荒野で彼を見つけることは不可能に近い。
景色を見て分かったが、この場所は町から僅かに離れた南に位置し、人が近寄らない一帯だった。

足跡はすでに風が消し去っており、痕跡を探すのは無理だった。
だが、可能性はゼロではない。
町から逃げるのに、わざわざ町に向かって逃げる馬鹿はいない。
理で動く人間であれば、なおさらだ。

だが四方位で考えれば、二つに可能性は絞られるのだ。
東に逃げればジュスティアが控えており、北に逃げればこの町に戻ることになる。
ならば、西か南しか可能性はない。
最短距離で逃げることを考えるのであれば、間違いなく南だ。

西に逃げたとしてもあるのは広々とした荒涼とした大地だけで、最寄りの町に辿り着くのにも車が必要不可欠とある。
いつ必要となるかも分からない事態に備えて車を近くに配置しておくとは考えられず、店長が徒歩で移動したと考えるべきだ。
ならば、残された選択肢は一つ。
南である。

南に進めば海があり、海を使えば後は自由の身となる。
彼がどこかの町に身を寄せる前に捕まえなければ、罪に問うのが難しくなる。
臆病者である店長が理を追及して選ぶのならば、間違いなく南だ。
彼が臆病者である限り、安全確実な道を選ぶのは確実だ。

消去法で答えが導き出せた後にすることは、行動だけである。
トラギコは迷わずに南に向かって走りだした。
店長は用意周到であり、臆病者であることは間違いないが、その行動理念にある根底は極めて想像しやすいものであることに間違いはない。
彼は常に最善を尽くそうと行動しており、それを理解すれば先んじて行動することは誰にでもできる。

特に今は彼が薬による影響で落ち着きすぎているという事もあり、その考えを逆手に取るのは容易なことだった。
問題は間に合うか否か、それだけだ。
結論から言えば、決め手となったのは両者の体力の差だった。
日々デスクワークで肥え太った男と、日々現場を駆けまわる男とでは根本の体力が違った。

トラギコが店長に追いつくのに要した時間は、ほんの五分だけだった。
彼は海沿いにある町に通じる道路を歩き、車がすれ違わないかを待ち望んでいる様子だった。
グレーのスリーピースをしっかりと着込んだ姿は、正に銀行の店長らしくしっかりして見える。

(,,゚Д゚)「動くな!」

銃を向けつつそう叫び、トラギコは大股で彼に近寄る。
乾燥した風が二人の間を吹き抜ける。

彡(^)(^)「はは……見つかってしもうたな」

歩みを止めて振り返り、店長は両手を挙げて降伏の意志を示す。
砂埃で汚れたその顔は穏やかで、悪戯を見つけられた子供のようなあどけなさがあった。
強盗を意図的に招き入れ、銀行を爆破した大人のする顔ではない。

彡(゚)(゚)「さぁ、逮捕してください」

54以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:04:20.492ID:Rydkjjcw0

55以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:04:36.325ID:mNVocZUy0
しえ

56以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:05:00.031ID:XQwBnzfd0
その一言は、犯人確保に躍起になる人間にとっては理想的な降伏の言葉だったが、使う相手が悪かった。
それは今のトラギコの逆鱗に触れる一言となり、彼は静かに激怒した。
果たして、この男がどれだけの人間に害をなしたのか。
そして、どれだけの恨みを買ったのかを自覚しているのだろうか。

銃を構えたまま彼の前に歩み寄り、トラギコはぞっとするほど優しい声をかけた。

(,,゚Д゚)「言われなくてもそうするラギ。
    だけどその前にな」

店長の肩に手を乗せ、トラギコは微笑んだ。
多くの動物がそうであるように、彼の微笑みは肉食獣が浮かべる残忍極まりない敵意の表れだった。

彡(゚)(゚)「はい?」

(,,゚Д゚)「手数料だ」

何事にも定石というものがある。
定められた通りに動けば、予定通りの結果が得られるというものである。
それは喧嘩においても言えることであり、この場合、最初の一手は相手の動きを封じることにある。
そうすれば後は、相手の弱点、即ち人体の弱点を容赦なく痛めつければ相手を無力化できるというものだ。

今回トラギコが選んだ初手は、腹部への容赦のない膝蹴りだった。

彡( )( )「ふぁっ……?!」

臓器がパニックを起こし、彼の思考が一瞬止まる。
頭が落ちるのを見逃さず、肩に乗せていた手を素早く彼の高等部に添えて膝を鼻面に叩き付けた。
骨の折れる音と、豚の鳴き声のような悲鳴が僅かに上がった。

(,,゚Д゚)「さて、お望み通り逮捕してやりたいんだが……まずはランダ条約の読み上げだ。
    お前が一度逃げたせいで、もう一回読み直しラギ。
    俺は優しいからな、ゆっくり読んでやるラギよ」

銃床を使って後頭部に殴りかかろうとしたその手が、背後から掴まれた。
振りほどけない程の力強さはないが、並の膂力ではない。
訓練を受けた人間のそれだ。

(,,゚Д゚)「……何だ?」

(;><)「何だ、じゃないですよ。
     貴方こそ何をしているんですか!」

振り返らずとも、その声と腕がビロードのものであることは確実だった。

(,,゚Д゚)「見りゃ分かるだろ、逮捕前にランダ条約を読み上げてやるんだよ。
    罪状がさっきと変わるからな」

(;><)「無抵抗の犯人に対して一方的な暴力は警官として最低の行為です!」

若い考えだ。
まっすぐで、本当に正義感溢れる見事な考え方である。
だが模範解答で警官はやっていけない。
この世界にある正義というものを守らせるためには、ある程度の見せしめが必要なのだ。

そして、善人が味わった痛みの万分の一でも犯人たちに返さなければ、善人たちはただいたずらに傷つけられたことになる。
法律に従って処分されても、喜ぶのは裁判官たちだけであり、被害者達は何も得る物が無いのだ。
ならば、彼にせめてできるのは、犯人が同じ過ちを二度と繰り返さないよう、痛めつける事。
そしてその痛めつけられた姿を刑務所に晒し、周囲への警告とするのだ。

57以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:06:14.698ID:XQwBnzfd0
事実、トラギコの名前は彼が携わっていない事件の犯人、犯罪組織にも広く知れ渡っている。
トラギコという男は怒らせない方がいい、まるで虎のような人間である、と。

(,,゚Д゚)「最低、だからどうした。
    それより、手錠を用意しておけ。
    そうでなけりゃ、またこいつは逃げるラギ」

だがビロードは手を離そうとしない。
力を弱めるどころか、強めているようにも感じる。
若い正義感がそうさせていることはよく分かる。
だからこそ、トラギコは彼の行いを非難することはせず、淡々と対処することにした。

感情的な人間に感情的な対応をしても、得られるのは不毛な結果だけなのだ。

(,,゚Д゚)「おいおい、捕まえる相手を間違えてるラギ」

(;><)「間違ったことを正すのが自分達の仕事です!」

(,,゚Д゚)「違うラギ。
    間違いを起こさせないようにするのが仕事だ。
    間違いが起きてから対応してたら、俺達の意味がないだろ。
    間違いを正すのは法律の仕事ラギ」

掴んだ腕を振りほどき、トラギコは店長を地面に叩き付けた。
それからようやく振り返り、ビロードの目を見た。
鋭い眼光に気圧されたのか、僅かにその目が逸れる。

(,,゚Д゚)「理想を持つのも結構だが、それじゃあ何も変わらねぇよ」

店長の着ていたジャケットを剥ぎ取ると、彼の背中に金貨が輝いていた。
ベストの裏に縫い付けられた小さなポケットに百ドル金貨が一枚一枚入れられ、その数は約三十枚。
三千ドル近い金になる。
百ドルを上手にやりくりすれば、一か月は過ごせる。

つまりそれだけの金額があれば、出所時に労せず新たな町での生活が再開できる。
逮捕時に所有していた私物は出所後に全て返却するというのが警察の基本ルールであり、この町が採用しているルールもそれに違わず同じだ。
このスーツが私物であると判断されれば、この男は出所後に新たな生活を送ることができるのだ。
結局、トラギコは自分で用意していた結束バンドを使って店長の手を背中で縛った。

(,,゚Д゚)「ビロード、お前が連行しろ」

(;><)「じ、自分が……ですか?」

(,,゚Д゚)「そうだ。お前が、だ。
    俺は本部に呼ばれてるんでな」

そう言いながら、トラギコは町の方を指さした。
距離にして五百メートルも離れていない。
警官であれば、男一人を引き摺って連れて行けるだろう。

(,,゚Д゚)「何か不満でもあるのか?」

(;><)「いえ……ありません」

犯人を連行すれば、少なからず上層部はその人間を評価する。
犯人確保と連行はセットであり、連行は犯人の確保を意味するからだ。
この場合、ビロードが犯人を確保したと見なされる。
いわば手柄を譲るような物だ。

58以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:08:23.284ID:XQwBnzfd0
新人の警官にとって手柄の獲得は今後の昇進にかなり大きな意味を持つ。
彼は本部内でもそれなりに評価されることだろう。

(,,゚Д゚)「じゃあな」

もとより、トラギコは手柄のために仕事をしているわけではない。
先ほどビロードに言った通り、トラギコはただ事件を終わらせ、今後同じ過ちを繰り返させないようにすることが目的である。
逮捕による加点と評価は彼の興味にはない。

町に向かい、トラギコは大股で歩きだした。
内心で彼はビロードに対して憤っていた。
彼の言動は昔の自分を思い出させ、自分の未熟さを思い起こさせる。

(,,゚Д゚)「……面白くねぇな」

彼のつぶやいた言葉は風に掻き消え、誰の耳にも届かない。
物が焦げる匂いが風に漂い、彼の鼻に届く。
ひと騒動が終わり、これから事後処理が山のように待っている。
しかし、その前に本部での報告が待っている。

セントジョーンズはおそらく理解してくれるだろうが、その上にいる人間が理解するかは別だ。
特に、市長や警察長官は理解してくれるとは思えない。
減給と配属転換は避けられないだろう。
だが配置が変わるのならばそれはいいことだと考えることにし、町に急ぐことにしたのであった。

――この事件は後に金の羊事件と呼ばれることとなり、銀行に対する人々の認識と業界の認識を改めさせることになる。
そして警察は、有事の際に行動できる特殊部隊をどんな町にも素早く派遣可能にするため、中継駐屯地を町と町の間に設置する計画を発表した。
ジュスティアの影響力が拡大したことにより治安が僅かだが回復したことは言うまでもないが、全国の銀行の経営状況が一時的に上昇する現象が発生した。
金の羊事件をきっかけに銀行は新たに優良追加オプションとして人質保険を導入し、その加入を強く推奨することにし、成功したのだ。

この事後の対応を見れば分かる通り、法律的・契約的に見て彼の行動は違反に値するものではなかった。
警官が最優先するのは契約先で起こった事件の対応であり、人質についての項目は契約の中には含まれていないのである。
人質救出は専門のチームと機材を用意するのに金がかかるため、契約時にそれを削るのが普通なのだ。
ともあれ、トラギコの行動によって世界が僅かに変化したことは間違いのない事実である。

何故なら、この時代は――


第一章 了

59以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:10:00.781ID:XQwBnzfd0
支援ありがとうございました!
これにて本日の投下はお終いです

60以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:13:34.773ID:4mPGyURz0

61以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:17:29.760ID:0u7bIXVJa

62以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします2018/05/13(日) 23:17:46.931ID:DbwhQ5jz0
おつです!
内容が濃厚だねぇ

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